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ソニーは小型化を執拗に追究した
【コアコンピタンスの成功事例(2)】

CATEGORY : ブランディング成功事例

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UPDATE : 2018.11.22

文責 : 松山響

この記事のポイント

創業者の口癖「もっと小さくできないか」が全社に浸透し、小型化が武器になった

コアコンピタンスとは、企業やブランドが位置する市場において競争優位性となる要素のこと。

顧客に対して、他社には提供できないような利益もたらすことのできる、企業内部に秘められた独自のスキルや技術の集合体を指す。

そして、下記3つの能力をすべて有するものがコアコンピタンスにふさわしいとされている。

(1)顧客に何らかの利益を感じてもらえる能力
(2)競合に真似されにくい能力
(3)複数商品や他の市場に汎用できる能力

では、具体的にどのような能力がコアコンピタンスになり得るのか。実際の成功事例を見てみよう。

創業者の口癖「もっと小さくできないか」が
全社に浸透し、小型化が武器になった

HONDAのエンジン技術と並んで、コアコンピタンスの世界的な事例として今尚語り継がれるのが、ソニーが生み出したウォークマンである。

東京通信工業(ソニー)は1950年に、日本で最初のテープレコーダーを誕生させる。

画期的な発明として大きな話題を呼んだものの、重さ35kg、価格は当時の価格で16万円と、一般の人が手を出せる代物ではなかった。あまりにも売れず、国会の記録補助装置としてようやく使われたというエピソードも残っている。

しかし、この失敗で諦めることなくテープレコーダーの研究を続け、創業者のひとり、井深大の口癖「もっと小さくできないか」に応えながら、どんどんと機能の絞り込みと軽量化を図っていく。

そして1979年、ついにウォークマンが世に生み出されることになる。
 

手のひらサイズの再生専用ステレオカセットプレイヤーで、重量はわずか390g、価格は3万3,000円。ターゲットは音楽を一日中聴くのが好きな若者だ。

「録音機能がないカセットプレイヤーなんて売れない」

「こんな変な和製英語はとんでもない」

発売当初は悲観的・否定的意見が大半を占め、30,000台も作ったのに最初の1ヶ月で売れたのは3,000台程度。

しかし、宣伝部や営業部の人たちは「真に新しいこの商品は、使ってみないとはじまらない」と、日曜に新宿や銀座の歩行者天国に繰り出して若者たちに試聴させ、高校や大学の運動会や文化祭にもよく出向き、
若者に影響力のある有名人にウォークマンを渡した。

その誰もが最初は不思議そうな顔をしながらも、ヘッドフォンを付けて音楽を聴くと、パッと驚きの表情に変わる。若い購買担当に権限が与えられていたデパート丸井は、まだ誰もが否定的で見向きもしなかったころに1万台を注文した。

最初は不安だったソニーの社員たちもこうした若者の反応によって「これは絶対売れる」と確信していく。
 

結果、大きなテレビCMなどは展開しなかったにもかかわらず、驚くべきスピードで若者のあいだに広まっていき、8月で初回生産30,000台が完売。以降、生産が追いつかない状態が半年も続いた。

やがてウォークマンは海を越えて世界に広がり、発売から15年で累計1億5,000万台を突破するベストセラーに。

ウォークマンはソニーの代名詞となり、その特性を支えた「小型化」はソニーのコアコンピタンスとなる。
 
 

この小型化は、

「大きなラジカセを持ち歩かずに外で音楽を聴くライフスタイルをつくった」

「発売時に競合が真似できない技術だった」

「ポータブルCDラジカセ、ポータブルMDプレーヤー、ポータブルテレビなど、他の製品や市場に横展開できた」

というコアコンピタンスの3要件を満たしている。
 

今や小型化は商品改善の定番となっているが、その先駆けとなったのは間違い無くソニーであったのだ。

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