差別化戦略とは、マイケル・E・ポーター(MichaelE. Porter)によって提唱された競争戦略の1つ。
ひとつの市場における製品やサービスについて、基本的な機能は同じであっても、デザイン面での付加価値やブランドイメージ、顧客サービス、プロモーション活動などによって、競合他社より優れていることを強調し、差別化を測ることで競争優位性を獲得する戦略のことを指す。
差別化は競争における基本的な戦略であり、多くの企業がこの手法によって成功を収めている。
本業の領域を超えた地域ファーストのサービスで黒字化
スーパーマーケットの市場は価格競争が発生しやすく、特にローカル食品スーパーは規模の経済を携えた大手の進出によって、あっけなく潰れてしまうケースも多い。
山梨県のローカルスーパーマーケット「やまと」も、かつては価格競争に巻き込まれて疲弊し、赤字で経営危機に陥っていた。
そこで立ち上がったのが、新たに社長に就任した小林久氏。
最初に取り組んだ戦略が、ターゲット層の差別化である。当時、大手が30代ファミリー層をターゲットにしていたのに対し、同スーパーは中高年にフォーカスし、品揃えはもちろん、棚の高さなどもターゲットに合わせて変更した。
さらに、彼は地域のために本業以外のサービスをどんどん充実させていく。
たとえば、店頭に生ごみを堆肥にする処理機を設置し、無料どころかポイントを加算して積極的に生ごみを引き取る。
スクールバスを改造して高齢者向けに移動式スーパーを用意する。ホームレスや障がい者を従業員として採用する。
など、他のスーパーがやらないことでも、地域に価値のあることだと思えば積極的に採用していった。
こうした活動は地元メディアをはじめとする各媒体で大きく取り上げられ、やまとは地域土着のスーパーとして地元の人たちに愛されるようになる。特に小林氏は様々な講演に呼ばれるようになり、ついには山梨県の教育委員長を頼まれるほどの人気を誇った。経営も年々回復していき、黒字経営へと転化したのだ。
ただ、このサクセスストーリーには後日談がある。世間の評価はますます高まる一方で、近郊には巨大なショッピングモールが次々と開店して、本業のスーパー事業はなかなか利益増が出せなかった。
すると、問屋業者のあいだで「やまとの成績が芳しくない」という噂が流れ、商品の納品を渋ったり、前金を要求したり、資金繰り表の送信まで求めてくる問屋もあった。こうしたペナルティは、わずかな利益で日々資金繰りに知恵を巡らせている同社にとって致命傷であった。
そして2017年、やまとは突然倒産する。誰にも真似できないことを徹底し、地域からも愛されるなど、差別化戦略には成功していた。実際、閉店したときは住民から行政に対して多くのクレームが寄せられたという。
つまり、差別化で消費者の心を掴んだとしても、それが必ずしも大きな利益につながるとは限らず、むしろ差別化によって業界から単独で目立つことが、思わぬリスクを招く場合があることもこの事例は示してくれている。