STPマーケティングとは、新規に市場を開拓する際に有効とされるマーケティング手法のひとつ。競争優位性を設定するための3要素である、セグメンテーション(Segmentation)ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字をとった用語である。
セグメンテーションとは、市場を細分化すること。ターゲティングとは、ターゲットとなる市場や層を絞り込むこと。ポジショニングとは市場における自分たちのポジションを明確化すること。
参入する市場やターゲットの具体的な絞り込みや、自社の独自性や競争優位性を発見することを目的として、このフレームワークは有効活用されることが多い。
ベビーブーマー世代の富裕層に目をつけ、
カジュアルなラグジュアリー感を打ち出して成功
1989年に日本製の高級車としてアメリカで販売開始したトヨタ自動車のレクサス。「壊れにくいが安い大衆車」という日本車のイメージを塗り替え、初代LSから大ヒット。大衆車メーカーが高級車市場に参入するモデルケースとして今なお語り継がれている。
当時のアメリカ高級車市場にレクサスは如何にして参入し成功したのだろうか。STPマーケティングで読み解くと、その成功プロセスが明らかになる。
まずセグメンテーションでは市場調査とターゲット分析を行い、消費者の所得や年齢層などを軸に細かく市場を切り分けていく。
その上で、レクサスのターゲットを定めるターゲティングを行う。当時のアメリカの高級車市場を独占していたのは、リンカーンやベンツ。重厚で威厳に満ちたデザインで、いわば成功の象徴とされていた。ボリューム層も50〜60代以上と年齢は高めであった。
一方、戦後生まれのベビーブーマー世代にも新興の高所得者層が増えつつあり、高級車へのニーズも高まっていた。しかし、彼らは伝統的な価値観にとらわれず、機能性を重視した理性的な消費行動を行う世代。
特に権威主義的なものや自己顕示欲を誇示することを好まず、従来の高級車は彼らの考え方に合致したものにはなっていなかった。
そこに目をつけたレクサスは、ベビーブーマー世代の富裕層をターゲットに設定。地域で言えば西海岸的なライフスタイルを送る人たちが乗りたくなる車を作ることにする。
ポジショニングとしては、伝統的で格式の高いリンカーンとベンツに対し、先進的で品質の高いカジュアルな高級車。わかりやすく言えば、ショートパンツで乗れる機能的な高級車を目指した。
広告でも機能性の高さを訴求。ボンネットの上にシャンパンタワーを作った状態で、145mphに達してもシャンパンが一滴もこぼれないテレビCMは大きな話題を呼んだ。さらに、ビル・ゲイツやスティーブン・スピルバーグといった、まさにベビーブーマー世代を象徴する著名人が支持したこともあいまって、40代の富裕層や女性富裕層たちに見事ヒットし、初年度から大成功を収めることになったのだ。