マレーシアでの定期経営会議を終えて、飛行機に乗っている。合宿とも言える経営会議は今回も濃密極まりなく、マレーシアの熱帯的気温もスコールも感じる暇もなかった。議題は余るほどある。毎日、長時間のミーティングをして、ホテルに戻り、明日への資料を作成する。それだけの日々。
東京からクアラルンプールへの行きは、深夜便だったので寝なければならなかった。着いたら朝で、その日の会議が待ち構えている。この先のことを考えると飛行機の中で寝れるかどうかは体調管理の上でとてつもなく重大なのである。なんとしても寝なければ。そう考えるほどに寝ることはできず、結局ほぼ徹夜の状態でクアラルンプール1日目が始まったのだが。
それに比べて帰りは気が抜けた。経営チームと同じ飛行機で一列に並んでいるから羽目は外せないが、みんなが絶賛していたトマト味のパスタをあげたようなスナックを頬張りながら酒を好きなだけ飲んだ。普段なら寝てしまうのだが、まだ興奮が覚めやらないのか寝ることができず、映画を観た。
『散歩する侵略者』という映画を初めて知った。黒沢清監督だと書いてあるので観ることにした。主役は長澤まさみで、始まってからしばらくは、それが長澤まさみだとわからないほど、地味な役柄だった。この映画は音楽がおもしろい。概念を奪う宇宙人が地球を侵略する話なのだが、とてもリアルな日常の設定なのだ。CUREのような雰囲気なのにSF。それを成立させるのに重要な役割を担っているのが音楽なのである。間が抜けているというかコミカルというか違和感があって感覚がずらされるような気がする。
「待てないの50年くらい、宇宙人なら?」
見た目は夫だが、中身は宇宙人になってしまった松田龍平に長澤まさみは真剣にいう。地球が宇宙人に侵略されることがわかり、シリアス極まりない状況である。
信じられるような信じられないような、日常にありそうななさそうな、日常をホラーにもSFにも変えてしまう黒沢監督らしい素敵な映画だった。