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点と点をつなぐヒント

CATEGORY : 今日の一筆

UPDATE : 2018.10.30

文責 : 一筆太郎

新幹線で東京駅に帰ってきてホームに降り立つと、一瞬、自分は東京の住人ではないような気分になる。改札出口がどこだかわからないだけで、見知らぬ都会にやってきたかのような錯覚に陥り、もう20年以上も住んでいる東京という街が他人の街のように思える。不思議と、この気分を味わうとなんだかうれしくなる。

 

今日は軽井沢に行っていた。軽井沢を代表するブランドに呼ばれたのだ。課題は二つあった。一つは施設間の回遊を高めたいこと。軽井沢は狭いような広いような街だが、一つ一つの施設は大きい。そして施設の一つ一つは独立して存在することが多い。地方ではよくあることだが、点と点のように存在する施設を線で結びたいのだ。もう一つは、三世代で楽しめるようにすること。大人が楽しいとき、子どもは楽しめず、子どもが楽しいとき、大人が楽しめないという問題があった。これをいかに解決するか、というお題だった。

 

点と点をつなぐ方法とは何か?東京の自宅に戻り、いくつか本を手に取ってみた。施設と施設、つまりは空間と空間をつなぐのだから建築家の本にヒントがあるのではないかと思った。しかし、安藤忠雄の本にも伊東豊雄にも、ペーター・ツムトアの本にも点と点をつなぐ建築的方法は見当たらなかった。一つ面白かったのは、妹島和世の『物語のある家』という、「くうねるところにすむところ」シリーズの一冊だった。

 

この本は「梅林の家」という一戸建ての家を建てるプロジェクトが物語になっている。梅林の家には、映像をつくる父と広告会社に務める母と中一の長女に小一の長男、それにおばあちゃんと猫という家族構成だ。彼らは最初は一つの大きな部屋を求めたが、それぞれが大切にしているものがあることに気づき、部屋を分けることになった。その数18。ちなみに90平米の三階建である。トイレなども含むが、部屋は18なので実に多いい。一階には、玄関の部屋、食事室と台所、おばあちゃんの3畳の和室、長男のベットの部屋、トイレと洗面所がある。2階には本棚の部屋、父母のベッドルームと納戸、長女の勉強部屋とベッドの部屋、それに長男の机の部屋がある。3階には、お風呂とトイレ、お茶の部屋、テラス、それに離れといった具合だ。それぞれ小さいが独立した空間であり、プライバシーが守られている。

 

最初に家を建てるとき、この家族は大きな部屋がほしかった。それは家族のコミュニケーションをとる場がほしかったのだろう。家族という塊のようで個別な共同体を一つだと思える場といえるのかもしれない。結局、家族の象徴のような一つの大きな部屋はつくらなかったが、妹島和世は梅林の家にその大きな部屋の役割をもたらせた。それは、直接書かれてはいなかったが、窓にあるのだと思う。各部屋には実に多くの窓が開けられている。小さくて、隣の部屋から隣は見えるが、プライバシーは守られる窓がいくつも。おばあちゃんが座っているなという気配と遊んでいる子どもたちの気配と本を読んでいる夫婦の気配が一つに繋がって、家族という一つの気配のようなものになるのではないだろうか。

点と点をつなぐヒントが窓にあるのだと妹島和世さんから学んだ。

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