『プラットフォームブランディング』
川上慎市郎・山口義宏著 ソフトバンククリエイティブ／2013年4月5日発行
モノづくり大国の「崩壊」がきっかけで生まれた本書
本書は、ビジネススクールでマーケティング領域の共感を務める川上氏と、ブランド戦略を専門とするコンサルタントの山口氏の共著である。本書の企画は、2012年の夏にFacebook上での両氏の議論から始まったそうだ。当時は日本の家電業界各社の業績が悪化し、「工業立国ニッポン、危うし！」という危機感が、日本社会に走った年でもある。
川上氏は、まえがきでこのように綴っている。「ブランドや顧客の体験価値というものを真剣に考えたとき、その本質はもはや製品そのものの品質、すなわち“モノづくり”のレベルに留まるものではなくなるだろうという思いは、10年前から当時ビジネス誌の記者であった私の頭の中に、ずっと存在していた」。
その頃はまだ漠然とした考えであったのかもしれないが、今となってはまさに慧眼で、「技術力はあるが、ブランド力が弱い」という課題をまだまだ克服しきれていないのが多くの日本企業の現状ではないだろうか。
そのような意味において、2012年発行でありながら全く古さを感じないばかりか、著者である川上・山口両氏の目の付け所の良さが光る良書といえるのではないかと思う。
川上氏は続けてこう語る。
「ある種のインサイトが強力なブランドを築くと同時に、そのブランドの名を借りて生成される生活者の口コミや新たな付随サービスを吸収して、もともとのブランドの価値に留まらない新しい顧客価値を次々と生み出す基盤、すなわち“プラットフォーム”となる場合がある（以下略）こうして私は、“プラットフォームを活用したブランド戦略”の手法を体系化するというかつてない試みに、山口氏とともに着手することとなった。そして、試行錯誤の中で一つの形としてまとまったのが、本書である」と。
ブランディングの基礎から学べる戦略書
本書はこのような高い志のもとに書かれた、非常に読み応えのあるブランド戦略書である。ここでは、全体の章とタイトルをご紹介する。
序章 日本企業はなぜ負け続けるのか？ ブランド戦略の「不在」と「失敗」
第一章 知らないと恥ずかしいブランディングの基礎の基礎
第二章 「体験」が最高のブランドをつくる
第三章 体験価値を共創するプラットフォーム
第四章 進化するブランド戦略
第五章 顧客体験価値デザインとブランド戦略の実践
終章 日本企業はまた勝てるか？ 「理念」から「スキル」へ
章のタイトルを抜き出すだけでも、読んでみたいと思う魅力があるのではないだろうか。内容的にもかなり深堀りされ、実際に本書は分厚くずっしりと読みごたえがあるのでおすすめ。技術力を基にした工業立国としての日本にはまだまだ可能性がある。モノづくりのように、ブランドづくりも日本は一流になるはずだ。そんな希望も抱かせてくれる一冊だ。