ポジショニング戦略を提唱するアル・ライズとジャック・トラウトは、
「ポジショニングの時代にあって、最も重要なマーケティング上の決断とは、ネーミングだ」
と断言した。
名前とは消費者の頭の中にある商品のはしごに、ブランドの看板を引っ掛けるフックである。名前は売り上げを大きく左右する。いいネーミングとは何なのだろうか?
今回は造語で成功したブランドを参照してみよう。
コカ・コーラ:史上初を勝ち取ることで、
言葉のイメージを変えて成功
最もシンプルで力強いネーミングとは、史上初となる商品やアイデアを携えて、最初に消費者の頭の中に踏み込むケースだ。この限りにおいて、たとえ無意味な名前や辞書にない名前、大胆で危険な名前であっても消費者の頭に定着し、以後大勢の人々に受け入れられる可能性が大きい。
コカ・コーラはわかりやすい例だ。「コーク」には、「石炭を空気のないところで燃やした残余物」という意味があり、コカインの別名でもある。語源を辿れば決してプラスイメージとは言えない言葉だが、コカ・コーラは史上初となるコーラ飲料だったため、コカ・コーラが「コーク」の連想語として見事に定着した。彼らは「コーク」の意味自体を塗り替え、人々はその言葉に従来のネガティブなイメージを浮かべることはなくなったのだ。
コダック:全く新しい響きと全世界で発音できる造語で成功
アメリカに本拠地を置く世界最大の写真フィルムメーカー「コダック(イーストマン・コダック・カンパニー)」。誰もが一度は耳にしたことがあるこの社名も造語から成り立っている。
創業者のジョージ・イーストマンは、1889年に従来のガラスや紙ではなくセルロイドを素材としたロールフィルム式携帯カメラを生み出した。後にこのフィルムをトーマス・エジソンが採用したことで、「映画」という娯楽を世に送り出すことが可能になる。世紀の大発明である。
イーストマンがネーミングにあたって考えたことは実にシンプルだった。
・従来のポータブルカメラと区別できる、全く新しい響きの新しい名前
・全世界のどの言語でも間違いなく発音できる簡単な名前
・全世界どこでも、1通りにしか読めないアルファベットの組み合わせ
・短くて力強く、印象に残りやすい名前
これらの条件を組み合わせて生まれた「Kodak(コダック)」は画期的な製品とともに世界中に広まり、以後100年以上にわたって常に画期的な製品やサービスとともにあった。コダックという名前には、ブランドのチャレンジ精神と全世界に広めるという大きな野心が込められていたのだ。