エースホテルを生み出したデザインスタジオ、ローマン アンド ウィリアムスは、スティーヴン・アレッシュとロビン・スタンデファーの二人が設立した。彼らは、もともとハリウッドの美術製作をしていた。だからか、Ace Hotelをはじめ、彼らが手がける空間には強い物語性がある。
たとえば、フランク・ロイド・ライトが設計したユーソニアン住宅は、「あるイタリアの自転車修理工がこの家にやって来て、彼好みにここを改修しようと考えた」というストーリーを設計し、フランク・ロイド・ライトという強い文脈や重しから逃れて、独特の空間を生み出した。
映画のセットは空間の断絶が起きる。特に撮影スタジオでは、ニューヨークのモダンなストゥディオの隣に和室があったり、それもストゥディオは2018年で、和室は昭和初期というような様式も年代もバラバラな空間が一箇所にある。撮影を効率よくするためのものだが、現場にいると何が何だかわからなくなる。カオスだ。
ローマン アンド ウィリアムスが生み出す空間はカオスが楽しい。3000ドルの椅子と30ドルの椅子が見事に同居してしまう。
Ace Hotel NYはとても個人的な感覚や感性を空間に持ち込んだ。
スティーブン・アレッシュ : ディベロッパーやオーナーは大抵、最初にこう言います。「私たちが目指すのは、利用客のひとりひとりに完璧なエクスペリエンスを提供することです。誰もが自宅にいるときのように寛げることが理想です。」これは、客の立場を思いやる考え方のように聞こえますが、実はそこでは、あらゆる自然発生的な流れが堰き止められ、中途半端な、可もなく不可もないものしか出来上がりません。そうした約束事を片っ端から打ち破るのがエースです。あらゆる方向に、渾身のパンチを繰り出しました。