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ファブリーズの大失敗とV字回復
【コンシューマーインサイトの成功事例(4)】

CATEGORY : ブランディング成功事例

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UPDATE : 2019.02.07

文責 : 松山響

この記事のポイント

「日常の嫌なにおいを消す」に潜む誤算。当事者はにおいに鈍感だった

コンシューマーインサイトとは、消費者の行動や態度の背景にある意識を深く洞察すること。

行動に結びつく内面心理を深掘りしたり、行動や購買に結びつくブランドと生活者の共通点や、ライフスタイルなど目に見えないものを解釈することで、新しいインサイトを発掘することを目的としている。

アンケートなどで消費者自身の言葉から出てくるニーズは、すでに表面化されたものであり競合他社も持っている情報の可能性が高い。

一方、コンシューマーインサイトは消費者も言葉にできないような無意識的・潜在的なニーズを発見することにつながるため、新しい製品・サービスの開発や市場の開拓に有利となるのだ。

「日常の嫌なにおいを消す」に潜む誤算。
当事者はにおいに鈍感だった

消臭剤の定番といえば、P&G社のファブリーズ。日本のみならず世界中で愛用されている大ヒット商品だが、その歴史には大きな失敗と大逆転のストーリーがあることをご存じだろうか?

ファブリーズが誕生したのは、1990年半ばのこと。アメリカのP&G社は悪臭を根絶する安価で透明な液体を開発し、販売に向けて元ウォール・ストリートの数学者や生活習慣行動の専門家を集めてマーケティングチームを結成した。

新製品の名前は「ファブリーズ」。この画期的な製品の成功を確信した彼らは、いくつかの都市でテスト販売とテストCMを実施して消費者の反応を調査した。

最初のテレビCMでは、タバコのにおいなど服に付着した悪臭を消すもの。次のテレビCMでは、ソファやカーペットなどの家具からペットのにおいを消すもの。

「日常の嫌なにおいを消す」というメッセージでベネフィットがわかりやすく、マーケティングチームのメンバーはファブリーズの大ヒットによって特別ボーナスが出ることを想像しながらその時を待った。

しかし、1週間、1ヶ月、2ヶ月が過ぎてもファブリーズは売れず、むしろ売上はどんどん縮小していったのだ。
 
 
パニックに陥ったチームは、慌てて消費者を訪問して詳細な調査を実施する。すると、猫を飼っている家庭の飼い主はもはや猫のにおいが気にならず、家で喫煙する家庭もタバコのにおいが常習化して鈍感になっていることがわかった。

ファブリーズがフックにしていた「日常の嫌なにおい」は、当事者にとっては気にならないものだったのだ。
 
販売戦略を練り直す必要に迫られた彼らは、ハーバード・ビジネス・スクールの教授をメンバーに迎え入れて、ファブリーズをよく利用する人の生活を徹底的に調査する。

すると、とあるファミリー層では母親が部屋の掃除を一通り終えたあとに、最後の締めとしてファブリーズを吹きかけていることがわかったのだ。

その女性にデプスインタビューをすると、このように話したという。「掃除を終えたあとに、ご褒美や祝福のような気分でスプレーを噴射するの」と。この女性は2週間でファブリーズ1本を消費していた。

 
インサイト調査を終えて出来上がったファブリーズの新しいプリント広告は、窓を開けてフレッシュな風が吹き込むイメージになった。テレビCMは掃除が終わって清潔な部屋にスプレーするものや、ベッドを整え終わったあとにスプレーして香りを楽しむものへと変わった。
 

ファブリーズは「日常の嫌なにおい」を取り除く商品から、「掃除を終えたご褒美」や「日常にフレッシュな香りを加える」という商品へと変貌したのである。 

生まれ変わったファブリーズは、2ヶ月で売上が倍増。見事なV字回復を遂げ、1年後には2億3000万ドルもの売上をもたらした。

やがてフレッシュな香りの訴求に加えて、当初想定していた「日常の嫌なにおい」を取り除きたい層にも愛用されるようになったファブリーズ。

その後、多くのスピンオフ商品を生み出し、ファブリーズは年間10億ドル以上の売上を占めるP&Gの一大事業へと成長している。

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