リレーション・マーケティングとは、企業が顧客一人ひとりとの関係を構築し、長期に渡って製品・サービスをリピート購入してもらい、顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化するマーケティング手法のこと。サービス・製品の市場シェアを高めることよりも顧客との結びつきを深めることに主眼が置かれる。
「ザ・リッツ・カールトン」は質の高いサービスで宿泊客の心を掴み、多くのファンの獲得に成功しているホテルである。日本国内では東京、大阪、京都、沖縄の4カ所、世界各国にも数多くの宿泊施設を展開している。
ザ・リッツ・カールトンが取り組んでいるのは、IT技術を利用したリレーション・マーケティングだ。彼らは宿泊客からリクエストや要望を受けて、その要求を満たすのではない。あくまでも、ホテル側がこれまでに蓄積した様々なデータから宿泊客の潜在的なニーズを探り、顧客ごとに個別のサービスを提供するのである。そこにはサービスにあたる従業員のアイディアが活かされ、宿泊客にとって意外性のある「おもてなし」の形が生まれる。
サービス向上のための取り組みは徹底している。大阪のザ・リッツ・カールトンを開業する際にも、従業員の採用やトレーニングに多くの時間と労力を注ぎ、「人間力」のレベルアップを促進。ザ・リッツ・カールトンには、全従業員が携帯する「クレド」と呼ばれるカードが存在し、そこにはサービスの基本方針が記されている。しかし、現場で求められるのは従業員一人ひとりの柔軟な対応である。支配人からスタッフまでが一丸となり、感動につながるサービスとは何かを模索し到達した答えは、声にならない顧客の要求を先読みすることだった。
このホテルには、顧客サービスにまつわる「神話」的なエピソードが多く存在している。大阪のザ・リッツ・カールトンに宿泊した東京在住の男性がホテルに腕時計を置き忘れてしまった際、宿泊中にその男性の世話をしたホテルマンが、自ら東京までその腕時計を届けたという。
潜在的なニーズが満たされると、宿泊客は「満足感」を通り越した「感動」を覚える。その感動が「また、あのホテルに泊まりたい」という欲求につながるのである。大阪のザ・リッツ・カールトンの宿泊客のリピート率は、50%だという。そして、こうしたリピーターに関するデータをすべて蓄積して解析することで、さらなるサービスの向上を可能にしているのである。