フォーカス(絞り込むこと)が重要であることは、ドラッカーの以下の言葉からも理解できるだろう。
「集中の決定とは戦場の決定である。この決定なくしては、戦闘はあっても戦争にはならない。集中の目標は、基本中の基本というべき重大な意思決定である。資源は限られている。集中することなくして成果をあげることはできない。」
さらに、「集中こそ成功のカギである。経済的成果を上げたいなら、経営者は、最大の収益をもたらす少数の活動に集中せねばならない」
フォーカスすることなしに成果はあげられないとまで言っている。
では、実際に成果をあげたブランドにはどのようなものがあるのだろうか?
スターバックスはコーヒーだけを売ることにフォーカスして成功した
スターバックスからは様々なブランディングの戦略が学べるが、彼らの最も重要なイノベーションは、コーヒーにフォーカスしたことに他ならない。
スターバックスが登場するまでは、町のコーヒーショップといえばハンバーガーやアップルパイなど様々なメニューを提供する店のことを指していた。そこに颯爽と現れた「コーヒーのスペシャリストであり、コーヒーだけで勝負する専門店」はまさに革命そのもの。
誰もが商品やサービスを増やすことが企業の成長につながると思いがちで、製品ラインを狭めることが正しいとは直感的に思えないかもしれない。しかし、結果的にスターバックスは世界最大のコーヒーショップの座を欲しいままにしているのだ。
瞬足は「運動会で速く走れる靴」にフォーカスして成功した
アキレス株式会社のジュニア用スポーツシューズ「瞬足」は、2003年の発売以来、「速く走れるスニーカー」として小学生の間で爆発的な人気を呼び起こし、毎年600万足を売り続ける大ヒット商品となった。
瞬足を開発する際に彼らが実行したフォーカスは2つある。まず一つ目が、「運動会で速く走れる靴」に絞ったこと。運動会は走ることの原体験として誰もが記憶に残っている、子どもにとって非常に重要な行事。
だから、サッカーや野球など様々なスポーツに対応するものではなく「運動会専用」の靴、とにかく運動会で速く走れることだけを考えた靴を作ることに決めた。それが瞬足最大の特徴とも言える、トラックの左回りに対応した「左右非対称ソール」を生み出したのだ。
もう一つのフォーカスは、販売ラインを小学校低学年の男子に絞ったこと。ジュニア用スポーツシューズを販売する場合、幼児用から高学年の男女までアイテム展開するのが業界の常識であった。しかし、彼らは「小学校低学年の男子を振り向かせられたら勝てる」と判断。事前の入念なリサーチによってジュニア用スポーツシューズのボリュームゾーンが小学校低学年男子にあることを知っていたのだ。小学校低学年の間でブームになれば、成長して高学年になっても使ってもらえるし、年下の子たちも瞬足に憧れを持ってもらえる。そのタイミングでラインを広げる作戦を練ったのだ。
この戦略は的中し、効率的に一番届けたいターゲットに種を蒔くことに成功。そして、圧倒的な実績が示すとおり、数年後にその花は見事に開花したのである。