現在、世界で利用することができるクレジットカードの国際ブランドは7つある。
VISA、MasterCard、中国銀聯、アメリカン・エキスプレス、JCB、Diners Club、Discover。
その中でも世界で60%以上のシェアを誇るトップブランドがVISAだ。
加盟メンバーがVISAの名の下に自由にサービス提供できるようにしたこと、世界でいち早く24時間電子認証システムを確立したことなど、競合他社とは異なる斬新な戦略を次々と実行していき、1980年代には当時トップだったMasterCardを追い抜いたVISA。
以来、現在に至るまで常に先頭を走り続けているという事実は、上記に挙げたような強力な世界ブランドが
ひしめく業界にいることを考えると実に驚くべきこと。それを可能にしているのが、確固たる地位に慢心しない姿勢と、競合の脅威を見逃さない嗅覚の鋭さである。
VISA:「アメックスが使えない高級店でVISAは使える」で成功
たとえば、1980年代に急速な成長を遂げていたアメリカン・エキスプレス(アメックス)への対抗策は実に巧妙だった。
1984年、アメックスは当時最上級のランクとなるプラチナカードを導入。もともとゴールドカードの導入で富裕層の需要喚起を実現していた同社は、さらなる富裕層の囲い込みに成功する。
効果的なマーケティング・プロモーションも功を奏し、アメックスはステータスや特権、クオリティの象徴というイメージが定着していたのだ。
この「富裕層のステータス」というポジションを、VISAは見逃さなかった。彼らがアメックスに対抗するために考えた打ち手は、ライバルのポジションを崩すという戦略であった。
まず、VISAはゴールドカードとプラチナカードを導入。積極的なマーケティング・キャンペーンを実施して、アメックスにも劣らないステータスのイメージを構築していった。同時に、VISAの強みである加盟店システムをフル活用。広範囲でステータスカードを使えるように展開する。
広告ではアメックスが使えない一流レストランやリゾート、イベントなどを集中的に取り上げて、「いつでもどこでもVISAカード」という露骨なメッセージを発信した。
これにより、ステータスのイメージと利便性の高さの両方をアピールすることに成功。かつてはアメックスの牙城であった海外旅行のシーンでも、VISAは一番に選ばれるクレジットカードとなった。
ライバルの強みを無効化し、
弱みに消費者の目を向けさせる
ライバルのポジションを崩す際のポイントは、まずライバルが強みとしている領域の優位性をいかに無効化できるかが重要である。VISAにはアメックスほどの高級感はないかもしれないが、類似性を打ち出して劣っていないことをアピールした。
次に、ライバルの強みではなく弱みに消費者の目を向けさせることも一つの戦略だ。VISAは、アメックスが使用できない高級店があることを消費者に気付かせた。加えて、加盟店の幅広さはVISAの強みであり、その優位性を明らかにしたのだ。
それなりのステータス感と、圧倒的な利便性。そのどちらかが欠けていたら、VISAの戦略は成功し得なかったに違いない。