Branding Knowledgebase SINCE.

みかん先生、
ロゴのつくり方を教えてください!

CATEGORY : ブランドのデザイン

UPDATE : 2018.10.23

文責 : 松山響

世の中はロゴに満ちている。飲食店やホテルの看板、スーパーに売っている飲み物やお菓子、テレビ番組やYOUTUBEの合間に流れる広告、国旗や標識だってロゴと言えるかもしれない。僕らがロゴを目にしない日はほとんどないし、ある商品やサービスを思い浮かべるとき、意識せずとも頭のどこかにロゴが浮かんでくることも多いだろう。

ロゴがブランドにとって重要な存在であることはなんとなくわかる。でも、ロゴとブランドの関係について、深く考えたことはあまりなかったかもしれない。ロゴがどんなふうにつくられているのか、ロゴをつくるときに大切なことはなんなのか。そして、ブランドにとってロゴはどんな存在なのか?

こうした疑問を解き明かすために、SINCE.新人ブランディングディレクターの松山はとある人物の元を訪ねた。

みかん先生。東京にあるデザイン会社を経営する傍ら、大東文化大学の非常勤講師も務めるグラフィックデザイナー。企業や商品、サービスのロゴデザインを多数手がけてきた。ちなみに、みかんという名は本名である。

これから2回にわたって、先生にロゴが持つ意味やロゴのつくり方を教わりながら、ロゴとブランドの奥深い世界に足を踏み入れてみようと思う。

そもそも、デザインってなに?

松山「みかん先生、こんにちは。じつは今日、朝起きてから先生のオフィスに到着するまで、僕は何個のロゴを目にするのか数えてみたんですよ。壁掛け時計のメーカーロゴ、朝食のフルーツグラノーラ、牛乳、パン、歯ブラシ、洗顔、パソコン、街の看板、スマホサイト、電車の広告、向かいに座っているお姉さんの靴と鞄と腕時計と口紅とアイライナーと鏡と…ちょっと他の事に気を取られて数えるのを忘れてしまったんですけどね。想像以上に身の回りがロゴだらけなことに驚きました。でも、一つひとつのロゴにどんな意味があるのかとか、どうしてこのデザインなのかって、あまり考えたことがなくて。今日はロゴデザインをたくさん手がけられてきた先生に、色々と話をお聞きできればと思っています」

みかん「なるほど。わかりました。ところで、松山さん。デザインってなんだと思います?」

松山「えっ、デザインですか?そうですね…アイデアやメッセージを形にすること、とかですかね?あ、ちょっと待ってくださいね…(スマホをいじる)ありました。Wikipediaには、“オブジェクト、システム、さらに測定可能な人間とのインタラクションを構築するための計画またはコンベンションを作成する行為”って書いてあります。ちょっとよくわからないですね」

みかん「うん。まぁ色々な答え方があるんだけど、まず一つ言えるのは、誰かの何かの“意味、意図”が込められた 「形」 であるということ。今座っている椅子やテーブル、スマホやICレコーダー、君が手にしているペンやメモ用紙ですら、誰かの意図が込められた“デザイン”です。なんなら、松山さんも“デザイン”されていますよ」

松山「え、僕もですか?」

みかん「目や耳が2つあるとか、髪の毛や肌の色だとか、種によってある程度形が決まっているでしょ?誰の意図かはわからないけど、そういうふうにデザインされていますよね。今朝、君が凝視していた電車のお姉さんもそう。世の中にデザインされていないものはない、とも言えるかもしれませんね」

松山「ふむふむ」

みかん「もうひとつお伝えしたいのは、デザインは“見えないものを見えるようにする”ということ。例えば、今日の株価は、実際には目に見えないですよね。お金や株券がそこらへんを飛んでいるわけでもない。その見えない動きをグラフや指標にして見せることこそが、デザインなんです。あるいは人間の気持ち。例えば、松山さんが今朝のお姉さんと連絡先を交換したとしましょう」

松山「夢のある話ですね」

みかん「後日デートに誘ったら、こんな返事がありました」

松山「おおっ!」

みかん「じゃあこっちは?」

松山「あれ、怒ってる?なんかすごい怒ってるオーラが…」

みかん「はい。このように、メールやLINEでハートや怒りの絵文字を使うことは、自分の気持ちを“見える化”し、演出しているという点で、紛れもなくデザインと言えるのです」

ロゴデザインとは〇〇である

松山「デザインのこと、少しわかった気がします」

みかん「よかったです。それじゃあ、ロゴデザインの話を。ロゴの目的は、企業やその商品やサービスをわかりやすくアピールするもので、まさに形のないものの「見える化・視覚化」ということに尽きます」

松山「それこそLINEのロゴとか、Facebookのロゴとか?」

みかん「そうそう。特にIT系のサービスはモノとしての形があるわけではないので、そのサービスのロゴが視覚化の一端を担っていたりしますよね。そんな重要な役割を持つロゴは、どのように作られているのか?その話をする前に、簡単にロゴの構成要素について説明しましょう」

みかん「このロゴはわかりますよね?」

松山「カラダにピース。カルピスですね」

みかん「はい。このロゴを要素分解すると…」

みかん「一口にロゴと言っても、実はこんなふうに、ロゴタイプ、シンボル、タグラインという要素に分かれています。このタグラインは、 コーポレートステートメントブランドステートメントとも言います。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、松山さんはわかります?」

松山「はい。ちょっと待ってくださいね」

みかん「あ、Wikipediaはもういいよ。まぁいわば、その企業やサービスのキャッチコピーのようなものです。中には、シンボルがなく、ロゴタイプとタグラインのみの例もあります」

あの有名ロゴに込められた意味とは?

松山「先生。先ほど、“デザインは意図の込められた形”とおっしゃっていましたよね」

みかん「はい」

松山「それで、ロゴデザインが企業やサービスの顔だとすると、それこそ“意図の込められた形”の最たるものだと思うんです」

みかん「そうですね」

松山「本当にそうなのかな?って思うんです。僕は今日ここに来るまでに散々ロゴを見てきましたけど、その一つひとつに本当に意図があるのかなと」

みかん「はいはい。じゃあ、実際のロゴを見てみましょうか。例えば、そこにダンボールがあるでしょ?」

松山「大きいですね」

みかん「うん。大きいっていうか、これはAmazonですね。ロゴが描かれています」

松山「ちょっと笑っているように見えるやつですね」

みかん「そう。スマイルの形は“顧客の満足を表す笑顔”を表現したものです。もうひとつ、この矢印はAからZにひかれていますよね。”from A to Z” 、つまり“Amazonでなんでも揃う”という意味も同時に表現しているのです」

松山「おお。確かに、Amazonのサービスをよく表していますね」

みかん「そうでしょ?矢印といえば、フェデックスなんかもおもしろいですよ」

松山「ん、矢印と何が関係あるのですか?」

みかん「矢印があるでしょ」

松山「え、どこどこ?」

松山「おおっ」

みかん「EとXの狭間にできる白い空間が「→」(矢印)の形を模っていますよね。これは、宅急便の“スピード”や“正確さ”を表現しているのです。あとは例えば…松山さんが履いているそのスニーカー」

松山「ナイキ」

みかん「ナイキ。このロゴにはどんな意味があると思いますか?」

松山「うーん、なんかシュッとした感じが早く走れそうな気がしますよね」

みかん「そうそう。ナイキは“スウィッシュ”と呼んでいますが、この形はスポーツのスピード感を表現しています。でも、これには実はモチーフがちゃんとあるんです。ナイキ=NIKEは読み方を変えると“ニケ”。ニケはギリシア神話の勝利の女神なんですね。このスウィッシュラインは、サモトラケのニケの女神像の翼をモチーフにつくられています」

みかん「このように、企業やサービスの顔とも言えるロゴデザインには、様々な意図が込められているんですね。そしてこれらは、ロゴデザイン単体で使用されることはありません。例えば名刺や封筒、看板に案内サイン、パンフレットや CM、ポスターなど、いろいろな場所、メディアに展開されて使われます。なので、最近ではロゴデザインという言われ方はせずに、CI(Corporate Identity)もしくはVI(Visual Identity)と呼ばれることが多く、単なる形ではなく、メッセージ性の強い企業やサービス理念の込められたデザインになっています。また、色々な場面で使われるため、その使用方法がバラバラにならないよう、ロゴの大きさ、色、禁止事項などを細かく定めた、CIマニュアルを作成することも多くあります」

松山「なるほど。メッセージや理念が凝縮された大切なものだからこそ、間違った使われ方や悪用をされないように守っていく必要があるのですね」

みかん「そういうことです。次回は、手前味噌ながら弊社で制作したロゴデザインの例を取り上げながら、ロゴとブランドの関係をさらに掘り下げてみましょう」

【プロフィール】
美柑 和俊 (みかん・かずとし)
株式会社MIKAN-DESIGN代表取締役、グラフィックデザイナー。
1977年山口県下関市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。2001年、株式会社編集工学研究所入社。2005年、MIKAN-DESIGN設立。書籍雑誌等、出版物のデザインを中心に、Web、アプリケーションのGUI、映像、イベントグラフィックなどの様々なメディアのデザインに携わる。
大東文化大学書道学科非常勤講師。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学会「カメレオンプロジェクト」会員。JAGDA会員。

RELATED ARTICLE

ご相談ください お問い合わせ