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12/15
国際線の本屋では

CATEGORY : 今日の一筆

UPDATE : 2018.12.15

文責 : 一筆太郎

国際線の空港にいくと、本屋に足を運びたくなる。
 
 
まだ荷物を預けていないタイミングだと、自然と文庫の前で本を物色するのだが、いざ荷物を預けてしまうと気が大きくなるのかハードカバーを手にとる。しかも、なぜかその場しのぎの本選びではなく、一生モノの本を探してしまう。
 
 
成田空港の第一ターミナルにはTSUTAYAが入っているのだが、ここには一生モノの本はあまりラインナップされていない。最近の売れ行きのよいものがずらっと並んでいる。もちろん世界各国を案内する旅の本は多いし、外国人向けの書籍はかたまっている。空港での本の需要はきっとそういうことなのだろう。
 
 
同じTSUTAYAでも代官山の店舗では、選書が変わっている。旅のコーナーが設けられていて、それはガイドブックのような類のものではなく、ブルース・チャトウィンの「パタゴニア」やジョン・スタインベックの「チャーリーとの旅」なんかが並ぶ。旅というより旅情というか旅文学というか観光案内ではない体験がつづられているものが多い。
 
 
たとえばスタインベックの「チャーリーとの旅」はノーベル賞を受賞した小説家である著者が、60歳を前に、キャンピングカーを自ら運転して、愛犬チャーリーを連れて、アメリカを巡るという旅物語だ。60歳近くになってアメリカを知らないことに嘆いて、自分の足でまわって自分の目で見て行こうとする。
 
 
僕はこの本が大好きで、よく読むのだが、これは、チャトウィンなんかもそうだけど、旅する端緒が詰め込まれているのだ。つまり、これを読めば旅をしたくなる。以前に友だちと車を運転しながらアメリカ5000kmの旅に出たことがあるのだが、その時のメインBGMはくるりの「ハイウェイ」だった。僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって〜で始まる歌である。まさに旅に出る理由をくれる本が代官山のTSUTAYAのコーナーには並んでいるのだ。
 
 
成田空港にはそんな本は必要ない。だって、もう旅に出ようとしてるのだから。旅に出る理由をわざわざもらわなくたっていい。いや、でも僕のように出張で来ている人もいるのだとしたら、そういう人たちにとっては新たな気づきになるのかもしれない。
 
 
 
僕が一生モノの本を読みたくなるのは、旅先で読む読書体験が記憶に刻み込まれやすいからのように思う。まだ20歳くらいのころ、ニューヨークに留学することになって、プレゼントされたのはニーチェ全集だった。ちくま学芸文庫の全集で、その頃バイトしてた出版社の人からいただいた。20歳の僕がニーチェを読んだところで内容など理解できていなかったのかもしれないけど、ユニオンスクエアの駅を降りてすぐにある、初めて入ったスターバックスで読んだことをいまも鮮明に覚えている。
 
 
一生モノの本と一口にいってしまったが、それは人それぞれだろう。僕はドラッカー全集が欲しいなと思ってビジネス本のコーナーを覗いたが、残念ながらおいてなかった。うろうろした挙句に『教養としての聖書』橋爪大三郎(光文社新書)を買った。タイトルからは一生モノのように思えないが、日本を出た時にこの本がどういう体験になっているのか楽しみだ。

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