一恵ちゃんは、大吉が出るまでおみくじを引く。一度や二度、吉や凶が出たところで動じることはない。百円を入れて、もう一度引く。ためらうことはない。去年は五回連続で引いているところを見た。おみくじは一発勝負だと思い込んでいる僕にとって、その光景は異様だった。神をも恐れる行為に見えた。
生まれて初めて引いたおみくじがいつどこでのものかは覚えていないが、そういえばおみくじのルールを教わったこともない。僕はおみくじは一回引いてみて何が出るかがルールだと思い込んでいたのだが、一恵ちゃんにとってのルールは何回おみくじを引いたら大吉が出るかなのだ。
今日、毎年恒例の初詣に出かけた松陰神社で、一恵ちゃんは嬉しそうに「今おみくじ引いたんだけどさ、なんだったと思う?」と聞いてきた。もう一目で大吉だとわかる顔だ。「大吉?」というと「よくわかったねー、一発で出たよ」と満面の笑みで大吉のおみくじを取り出して、書かれていることを読み上げてくれた。一発で・・・っておみくじって普通は一発勝負なんじゃないか?と僕は一瞬思うのだが、一恵ちゃんの嬉しそうな顔を見ると、そっちのルールの方がいいんじゃないかと思ってしまうのだった。