上田さんを迎えに赤坂の変なホテルに向かう。確か、この間は栫さんも泊まっていたホテルだ。変なホテルという名前がおもしろい。上田さんも栫さんもきっと変なホテルっていう名前に惹かれてるだけでは?六本木の事務所から変なホテルまでは車で5分ほどの距離でとても近い。近くに車を停めて、上田さんを待っている間、変なホテルについて思いを巡らせていた。サイトなんかで情報を得てしまってはつまらない。なにが変なんだろうか?
僕はホテルの仕事もしているし、hotestagramというインスタをやっていて、ホテルに関しては割と知っている方だと思う。好きなホテルはと聞かれたらプリンチペディミラノを思い出すから、きっとクラシックなホテルが好きなんだろう.木の温もりがあって、歴史と風格を感じる中に凛としたホスピタリティがあるのがいい。ホテルのジムから見える景色がやたらに美しかったり、廊下にさりげなく置かれた水瓶に入ったフルーツウォーターがとびきり美味しかったり、宝石のようなキラキラしたものではなくて、そういうところにラグジュアリーさを感じているのかもしれない。
変なホテルというからには、きっと変なのだろう。普通ではない何かがあるはずだ。たとえば、動物が住んでいるとか。ソフィア・コッポラが描いたヴェルサイユのようにアルパカみたいな美しい動物が住んでいるホテルというのはどうだろう。朝はニワトリの声で目を覚ます。牛も住んでいて、ルームサービスにはしぼりたての牛乳とある。もちろん、ニワトリの卵もあるだろう。
いっぴつ太郎さま 一月二十七日
あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
山ねこ 拝
この妄想はきっと、注文の多い料理店の影響だ。変なホテルを想像してたらいつの間にか賢治ワールドへトリップしていた。ソフィア・コッポラが描く賢治ワールドはどんなんだろう?なんて取りつく島のない妄想の最中、助手席の窓から覗き込む上田さんの顔が一瞬、山ねこのように思たけど、扉が開かれると外は寒くて、「お疲れ様です」という上田さんはやはり上田さんだった。