『成功事例に学ぶ マーケティング戦略の教科書』
酒井光雄編著 武田雅之著
かんき出版/2013年6月21日発行
ブランド構築を軸にしたマーケティング戦略の事例集
この本は、題名にあるように、43社のマーケティング戦略の成功事例を取り上げて解説した本である。マーケティング戦略の立案から、実際の導入、そしてさらなるイノベーションへと各ステージに応じた様々な企業の成功事例を紹介解説している。
「あれっ、ブランディングは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれないが、第4章「ブランドによるマーケティング戦略」という項目で、マーケティングを成功させるために、ブランド構築を軸にした事例を紹介している。
こういった専門書は、概してブランディングとマーケティング理論が各々別々の本なっている場合が多いが、統合して解説している貴重な本だと思ったので取り上げてみようと思った。ここでは、数ある事例の中から特に印象的だったものを2つ紹介したい。
KUMON:世界共通の教材フォーマットをつくり、効率良くグローバル化
日本のグローバル企業というと、一般的に自動車や家電製品を想起しやすいが、実はKUMON(公文教育研究会)は、世界に名だたるグローバル企業だという。
その展開地域は、北米、南米、アジア、オセアニア、欧州、中東、アフリカなど世界48カ国と地域に及ぶ。生徒数は434万人(うち日本国内は147万人)で、海外の生徒数が圧倒的に多い(2013年3月現在)まさにグローバル企業なのだ。
同社がグローバル企業として成功した背景には、5つのポイントがあるという。
(1)全世界で企業理念を重視し、全社員が共有化
同社に参画する際に、まずは企業理念に共感でいるかどうかを重要視している。
(2)世界共通の教材フォーマットと指導方法
公文式の教材は日本の学習指導要綱に準拠していないため、国によって教材を変える必要がなく、世界中で同じクオリティでの共通言語化が図れた。
(3)学びあう組織風土づくり
指導者研究大会などの世界中の関係者が交流する場を設け、相互に学び合う風土づくりを実践。
(4)ローカルにある知恵とノウハウをグローバル化
各国の教室の知恵やノウハウが、前述の関係者の交流により共有化され、ローカルからグローバルへと展開された。
(5)世界共通のグローバルブランド展開
グローバル展開する際は、日本語の公文ではなく、KUMONと表記し、世界共通のグローバルブランドとして展開している。
これにより、世界共通の教材フォーマットと指導方法に加え、企業ブランドも全世界で共通化させ、効率よく国際的評価を高めることに成功しているのだ。
マルホ:選択と集中でニッチ市場を勝ち取った好例
株式会社マルホと言われて、ピンとくる方は少ないのではないだろうか(私も初めて聞いた会社だった)。売上規模で約785億円の製薬中堅企業なので、それも仕方がないかもしれない。
しかしこのマルホは、皮膚科学関連医薬品外用剤の国内市場で、トップシェアを誇るリーディング・カンパニーだという。
なぜこのニッチな企業がトップシェアを占めるに至ったのか、そこには2002年に打ち出した企業ブランド戦略があったという。
同社はニッチ市場に該当する皮膚科学関連医薬品カテゴリーに特化し、「皮膚科学関連医薬品のブティック・カンパニー」になるという明確でシンプルな戦略を打ち立てた。
彼らが目指すべきゴールは下記4つのキーワードで明文化されている。
(1)オンリーワン
皮膚科学に精通した医薬品メーカーとして、確固たるブランドを確立。
(2)スモールガリバー
皮膚科におけるリーディング・カンパニーとして、ナンバーワンに。
(3)創剤から創薬へ
これまでの創剤事業をベースに、中期的に皮膚科学に関連した自社創薬に転換。
(4)グローバルニッチ
国内外企業と戦略的アライアンスを結び、クロス・ライセンスも含めた世界進出の基盤を確立。
マルホはこれにより、自社が目指す企業ポジションの構築に成功し、2009年に約512億円だった売り上げを2018年には約785億円と増加させることに成功した。
まさに選択と集中と、企業ブランドの明確化。これは、多くの中堅中小企業の参考になる成功事例なのではないかと思った。
そのほかにも、TOTOやカゴメ、アシックス、ゼンリンなど様々な企業の魅力的なマーケティング事例が網羅された本書。成功している企業がどのような着眼点と打ち手を実行しているのか、マーケティングの具体的なヒントを学べる良書である。