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ブランドはなぜ成功し、
そして失敗するのか。
その背景にある戦略とは?

CATEGORY : ブランディングを本に学ぶ

UPDATE : 2019.01.11

文責 : 山田歩

この記事のポイント

様々な業種のブランドマネジメントを追体験できる

老舗ブランドの復権「三ツ矢サイダー」の事例がおもしろい

成功事例だけでなく、失敗からも学べる稀有な本


『ブランド戦略・ケースブック』
田中洋編著
同文舘出版/2012年6月25日発行

様々な業種のブランドマネジメントを追体験できる

この本は、電通のマーケティングディレクターから法政大学ビジネススクール教授、そして中央大学ビジネススクール教授へと転身した田中洋氏の編著である。編著ということで、その他9名のブランディングに関わる専門家たちによって執筆され、「ブランドとは何か?」といった基礎から、様々な業種10のブランド事例までを取り上げることで、その成功や失敗の背景にどのような戦略があったのかが分析・記述されている。

読者の対象は、学生から専門家までと幅広く、自分に関わる業種のブランド事例を見ることができるので、まさにブランドマネジメントを追体験できる構成になっている。実際にブランディングやマーケティングに関わる実務者であっても、自分の業務以外の事例を体感する機会が少ないため、それらを補足するためという狙いもあるようだ。まずは自分に関わる業種のブランド事例を探して、そこから読み進めて行くのが良いのではないかと思う。
 

老舗ブランドの復権「三ツ矢サイダー」の事例がおもしろい

三ツ矢サイダーの歴史は古く、1884年(明治17年)に誕生。その後、宮内庁に献上されるなど、その評判を高めていった。

明治、大正、昭和と順調に売り上げを伸ばしたものの太平洋戦争で砂糖の入手が困難になると、その製造を一時休止。その再開は、砂糖の統制がなくなる1952年(昭和27年)の発売まで待たなければならなかったという。

このように歴史のあるブランドでも決して順風満帆ではなく、ブランドの存亡を脅かす数多くの危機を乗り越えてきた事実がある。少しくらいの挫折は当たり前だと、読者にとっても勇気が湧いてくるのではないかと思う。個人的には今50代前半の私にとって三ツ矢サイダーは、物心がついたときは存在し、夏の涼としてのお気に入りの飲み物だった。そして今でも三ツ矢サイダーを店頭などで見かけた際には、なんとも懐かしい気持ちが少年時代の想い出とともに甦ってくるのだ。

さて、この三ツ矢サイダーが直近に直面した売上不振の危機が2000年前後に起こった。1997年の2,870万ケースをピークに、2003年には約1,700万ケースと6年で約1,000万ケースも減少してしまったという。そして2004年に「三ツ矢委員会」を発足し、ブランド変革を行ったという。詳しくは、本書を読んでいただきたいのだが、下記3つの成功要因について仔細に分析されている。

成功要因(1):品質向上に集中
成功要因(2):強みとトレンドのマッチング
成功要因(3):日本的品質の訴求

そして重要なのが、新たにエレメントを追加するのではなく、ブランドが持っている強みを放棄せずに、ブランドエクイティを再評価して、どのエクイティが時代とマッチしているのかを見極めることを力説している点。ブランドの中身をいたずらに変更するのではなく、長年培ってきたブランド資産・コミュニケーション資産を最大限に活かす道が望ましいと結論付けており、なんでも変えればよいという思い込みに対する警鐘になっている点が優れていると感じた。
 

「BMW」、「セブン銀行」、「揖保乃糸」の成功と、失敗企業の事例も

三ツ矢サイダーの事例以外にも、「BMW」、「セブン銀行」、「揖保乃糸」や「R25」、「地域ブランド」など、幅広い業種と領域から全部で10のブランドについて分析・記述がされているが、本書のもう一つのポイントが、失敗企業の事例にも言及しているところだろう。

以前、プロ野球監督だった野村克也氏が「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と自身の座右の銘として発言して有名になったフレーズだが、これはもともと松浦静山が執筆した随筆集「甲子夜話」の中の一節として知られている名言・格言である。まさに失敗事例にこそ成功へのヒントが隠されているという意味で、非常に示唆に富んだ内容になっているのが本書の魅力だと感じた。

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