『地場産業の高価格ブランド戦略』
長沢伸也・西村修著
晃洋書房/2015年5月30日
地場産業企業が追求すべきは、感性に訴える「価値」
日本の製造業は、高い技術と高い品質を持ちながら、グローバル競争で立ち遅れているといわれることが多い。ブランド戦略が劣ってるとか、マーケティング力が弱いとかいわれることが多いように思う。
本書では、輝く地場産業企業の事例を通して、競合を意識するのではなく、ものづくりを徹底的にこだわり、いかに他社に対して持続的な優位性を獲得しているのかについて言及している。
取り上げられているのは日本とスイスの企業で、朝日酒造、スノーピーク、ゼニス、ウブロの4社。地場産業企業でありながら、高い知名度とブランド力が売りの会社ばかりである。
共通するのは、ものづくりにこだわりながら、感性価値の創造に成功した企業ということだ。地場産業企業のような小規模な企業が、競合企業に対して持続的な優位性を実現するためには、顧客の感性にダイレクトに訴求し、物語やヒストリーのレベルまでに昇華する価値創造が必要だという。
高くても売れることが、幸せの処方箋
日本の製造業は、国際的に比較して収益性が低く、特に中小企業は突出して利益が低いという。この課題を克服するには、高くて儲かるものづくりへの転換が求められている。
確かに家電製品などは「こんな値段で買えちゃうの?」とびっくりしてしまうことが多く、開発者の心情を思うと申し訳なく思うことが多々ある。
イチ消費者としてみた場合、確かにありがたいことが多いが、長期的に見たら製造業の比率が高い日本の国力が低下していることを示しているともいえる。
収益性の低下は、高くて儲かるものづくりへの転換しかない。そして、高くて儲かるものづくりを成し遂げている4企業の事例を詳細に解説しているので、ぜひ精読していただきたいと思う。
どうしても日本企業は価格の低さが良心である、という気持ちが強いのではないだろうか。そうではなく、こだわりのモノを高く売って、儲けるというのは、皆が幸せになるための唯一の処方箋なのだ。
ローカル・ブランドが価格を引き上げるための3つの仮説
高価格戦略のマネジメントとは、成熟した市場における本質的な問題解決に挑み、従来の企業では成し得なかった価値を創造することが求められるという。
そして持続的な企業の競争優位性につながり「最高のモノを高く売る」ための高価格戦略のマネジメントとして、3つの仮説が提示されている。
仮説1
プロダクトアウト型で、徹底的にものづくりにこだわり、感性が高められた「品質の次元」を追求し、購入者の感性により物語やヒストリーにつながる価値を創造する。
仮説2
ローカル・オブ・オリジンを活用する。「産地」の地理的な優位性に加えて、ローカルであることが消費者選好に与える要因を活用する。
仮説3
買い手の感性にダイレクトに訴求する仕組みをマネジメントする。
この3つの仮説を基にしながら、4企業の成功要因に言及しているので、詳しい内容はぜひ本書を手にとっていただければと思う。
本書を読む前にamazonのレビューを閲覧してみたところ、なんと1件もレビューがない。しかも発行は2015年なので決して最新の書籍とはいえない。しかしページをめくるごとにどんどん引き込まれていき、とても丁寧に真摯に書かれていて、私の好きなタイプの本であった。高価格ブランド戦略の真髄に正面から向き合える本なので、ぜひとも皆さんにオススメしたい一冊である。