成熟産業において、勝つために必要な戦略の共通点とは?
今回取り上げる本書の著者であるウィリアム C. テイラー氏は、アメリカのビジネス誌である『ファストカンパニー』の共同創刊者。同誌は毎年「世界で最も革新的な企業ランキング50社」を発表し、ここにランクインすることは国際的な栄誉と言えるほどの影響力を持っています。さらに著者は、元『ハーバード・ビジネス・レビュー』のエディター/コラムニストという顔を持ち、今でもハーバード・ビジネス・レビューのサイトや『ニューヨーク・タイムズ』に連載を持っている売れっ子のライターです。
そのテイラー氏が、世界中を取材して回り、新しい時代を象徴する成功を収めた15の企業の成功の理由や、それらに共通する特徴について記したのが本書。飲食、金融、病院、製造、運輸、不動産…など、イノベーションが出尽くした超成熟産業において、勝つための戦略はあるのか?また、すぐに真似される競争の激しい業界において、ずば抜けた企業の共通点とは何か?
高い業績を生み出すためには、イノベーティブな挑戦が欠かせません。さらに、ナンバーワンよりも、オンリーワンであることも重要です。こうした成功物語には、確かに共通項があったのです。
目指すは、世界最高に愛される銀行。メトロバンクの試み
一つ目の企業紹介は、イギリスのメトロバンク。2010年に100年ぶりに新規参入したリテールバンクだそうです。この銀行のスローガンは「ついに愛される銀行が登場!子どもたちは大はしゃぎ。愛犬も歓迎。ばかげた規則は一切なし」というもので、これらはあちこちのロビーやスクリーンに表示されているのです。
大きな特徴は、年に休業日はたったの3日、営業時間も平日は12時間、土曜10時間、休日6時間という顧客志向の高さ。さらには、新規口座開設にかかる時間は15分以内、ペットを連れての来店も歓迎とのこと。現在は48店舗、2017年5月には、100万口座に達したとのリリースも発表になり、順調に成長しています。
このメトロバンクのコンセプトは、実は新しいものではありません。創業者のバーノン・ヒル氏がアメリカで開業したコマースバンクのビジネスモデルをイギリスに横展開したものだったのだとか。しかし、そのコンセプトを競合は真似しようともしません。
「世界最高の銀行になろう」という目的、並外れた顧客重視の姿勢、そのための細部へのこだわり、熱意あるスタッフの雇用。こういったものは、おいそれと真似できるものではないからです。熱い想いと行動力は、他社を凌駕するための大きな要因となることをこの事例は示しています。
著者は、チャレンジャーブランドに共通する四つの戦略の柱を「視点」「徹底性」「突出性」「強固な基盤」と定義していますが、まさにメトロバンクはそれらを体現しているのではないでしょうか。
本書では、全部で15企業のケーススタディが紹介されています。どの企業の事例も読みごたえがあり、「なるほど!」と思えるものばかり。理論も大切だけれど、理論を超えた「想い」や「情熱」こそが、理論を超えるブレイクスルーの重要な柱になりうることがわかります。
成功への「8つの質問」がおもしろい
本書ではエピローグとして、成功への「8つの質問」という章を掲げています。
そのどれもが大きな気づきにあふれているので、最後にこちらをご紹介します。
①あなたの成功の定義は、競合とは一線を画し、同僚や部下に意欲を持たせられるものか。
②自分たちがやっていることがなぜ重要なのか、どうやって勝とうとしているのかを、説得力のある言葉で明確に説明できるか。
③業界で成功と見なされてきたものを見直し、自社の成功について考える準備はできているか。
④興味を持たれる存在でいるのと同じように、興味を持ち続けることができるか。
⑤技術や効率性と同じように、心や感情にも関心を払っているか。
⑥組織の機能を定義する価値は、価値提案を反映しているか。
⑦貪欲であると同時に、謙虚であるか。
⑧成功を収めるために尽力した人たちと、見返りを分け合う用意があるか。
みなさんの会社は、これらの質問にいくつYESと答えられますか?
そして、一つでも心に残る質問がある場合は、ぜひ本書を一読してみることをおすすめします。