2018年3月、熊本県の蒲島知事はくまモンの年間売り上げが1408億円強になり、前の年より10%増えたと発表した。くまモン、恐るべし、である。このブームは元を正せば、ゆるキャラブームがきっかけである。くまモンはゆるキャラグランプリ2011年の王者だ。
ゆるキャラという社会現象ともなったブームを巻き起こしたのが、みうらじゅん氏である。本書は『ない仕事の作り方』というタイトルで、みうら氏が手がけてきた数々の仕事を紹介しながら、一人電通という独特な仕事術を公開している。
ブランディングの観点から見ると、みうらじゅんというのはブランディングの巨人と言っても過言ではない。その仕事術となれば、ブランディングの技の宝庫だといえよう。ここでは、二つ、学べるポイントをピックアップした。
ゆるキャラブームの作り方
まずは、ネーミングから。
物産店に所在なさげに立っている奇妙ともいえる着ぐるみ。かつてはマスコットキャラクターと呼ばれていた。マスコットは来客に手を振って愛想を振りまくものの、客は見向きもしない。そんな光景を覚えている人も多いのではないだろうか。
そんなマスコットたちの姿に著者みうらじゅん氏は「哀愁」を感じたという。そして、いつの間にか、地方のマスコットことを考えるようになったという。それも尋常ではないくらい。
地方の物産展で見かける着ぐるみのマスコットキャラクターを一言で表すにはどうしたら良いか?そもそも、どの自治体も真剣に、ご当地マスコットキャラクターを考えて作っていたはずだ。何も、ふざけていたわけではない。だが、出来上がったものが妙な物体になっていたのだ。世の中の人たちが口には出さないが不思議で冷たい目線を向けていた。そのご当地キャラクターに、「ゆるキャラ」という名前をつけた。
真剣さを逆手に取り「ゆるい+キャラクター」 =「ゆるキャラ」と、みうら氏によって名付けられ、後に「ゆるキャラ」ブームを巻き起こすことになる。
ブームを作るために自分を洗脳する。
ここからが「ない仕事」の作り方なのである
人を洗脳する前に自分を洗脳する。「ゆるキャラ」って面白いと人に話しただけでは “
ブーム“はこない。自分が絶対に「ゆるキャラ」ブームが来ると思いこみ、自身を洗脳していく。
そして、ゆるキャラを集めるだけ集める。「ゆるキャラ」の出没する物産展には兎に角、足を運ぶ。「ゆるキャラ」の情報も大量にインプットする。
「ゆるキャラ」の情報が大量に集まったら、ここから種をまくのだ。
種をまく。ゆるキャラブームをPR
所謂、売り込みである。雑誌やテレビに企画を持ち込む。
最初に「ゆるキャラ」をタイトルにした連載は「ハイパーボビー」という、フィギュアの月刊誌だった。「ハイパーボビー」側から、「ゆるキャラ」で連載をして欲しいと依頼が来たわけではなく、エッセイの依頼が来て、そこからタイトル内容を自身で決め執筆したのだ。2000年7月1日号よりスタートした連載はまだ「ユルキャラ民俗学」と「ユルキャラ」が、カタカナ表記であった。
ここでも自分洗脳を活かし、「ゆるキャラ」のブームが来ているかの如く、「ゆるキャラ」について語った。
しかし、全国に膨大な数の「ゆるキャラ」がいると分かってくると、週刊誌でないと追いつかない… そう思った、みうら氏は「週刊SPA!」に出向き、企画を持ち込む。だが、そんなに話はとんとん拍子に行くはずもない。中々、雑誌の連載は決まらなかった。
イベント制作会社にプレゼン
1996年から、いとうせいこう氏と行っている「ザ・スライドショー」。ここで、お世話になっている、イベント制作会社に「ゆるキャラのイベントをやりたい」とプレゼン。
そして、2002年11月23日に後楽園ゆうえんちの野外ステージで「第一回みうらじゅんのゆるキャラショー」が開催させたのだ。名前も浸透していないにも関わらず、会場は満員になった。その後、直ぐに(2003年1月)「週刊SPA!」の連載「ゆるキャラだョ! 全員集合」の連載がスタートする。着々と「ゆるキャラ」が浸透し始める。
ただ、当初は「ゆるキャラ」という名前を受け入れることが出来ない自治体もあり、掲載許可の電話をすると「うちのマスコットはゆるくない!」と叱られたこともあったそうだ。一方で認知度が高まって行くにつれ、逆オファーも増えて来たという。世間に「ゆるキャラ」が周知される頃には「ゆるキャラ」という名前に寄せていくマスコットキャラクターも増えていった。
「ゆるキャラ」の発端であった、各自治体が真剣に作った結果、妙な物体になってしまった地方のマスコットキャラクターが、あえて「ゆるキャラ」を作りに走った事実はブームを通り越し産業にまでなったのだ。そして、かつては見向きもされなかった、ご当地マスコットキャラクターも、ふなっしーやくまモンのような大人気キャラクターも登場するようになった。
みうらじゅん的ネーミング術
「ゆるキャラ」に限らず、みうら氏が名付けたブームに名前は真逆にある者同士をくっつけている。「マイブーム」は、マイ(私の)という個人的なワードをブームという社会的な現象をミックス。遠くにあるワードをくっつけることで新たな名前を作り出している。マイブームはもはや常用語にすら化けてしまっている。
他にも、絶対いらない土産物、こんなもの誰が買うんだろうと思ってしまう「いやな土産物」を「いやげ物」と名付けた。みやげ物ならぬ、いやげ物。みやげ物としては価値の低かったものが、面白い名物になるかのようなレトリックがある。いやな土産物のマイナス部分をプラスにもっていったのだ。
みうらじゅん的ネーミング術とは真逆同士をくっつけ、そしてそれをただの混合ではなく相乗効果を起こさせるような、ネーミング術なのだ。