コンシューマーインサイトとは、消費者の行動や態度の背景にある意識を深く洞察すること。
行動に結びつく内面心理を深掘りしたり、行動や購買に結びつくブランドと生活者の共通点や、ライフスタイルなど目に見えないものを解釈することで、新しいインサイトを発掘することを目的としている。
アンケートなどで消費者自身の言葉から出てくるニーズは、すでに表面化されたものであり競合他社も持っている情報の可能性が高い。
一方、コンシューマーインサイトは消費者も言葉にできないような無意識的・潜在的なニーズを発見することにつながるため、新しい製品・サービスの開発や市場の開拓に有利となるのだ。
アメリカで最も成功したマーケティングのひとつ「Got Milk?」キャンペーン
1990年代初頭、アメリカのカリフォルニア州では牛乳の消費量が落ち込んでいた。1980年は1人当たり30ガロンだったのに対し、1993年には24.1ガロン。
カリフォルニア牛乳協会は牛乳の消費量を増やす対策を打つべく、広告代理店GS&Pにアイデアを求めた。
当時、牛乳の主な訴求ポイントは「栄養価が高い」「カルシウムが豊富」「健康に良い」など。実際、消費者の「牛乳をもっと飲むべき」という意識は80年代に比べて高まっていた。にもかかわらず、消費量は下降の一途を辿っていたのである。
そこで、GS&Pとカリフォルニア牛乳協会は牛乳をよく飲む人を対象に定性調査を実施。その内容とは、対象者に1週間牛乳を飲まない生活を過ごしてもらい、食生活の記録と、その後のグループインタビューを実施するものだった。
すると、牛乳をよく飲む人たちにもかかわらず、「調査があるまで牛乳のことを考えたことがなかった」という人が多く、「牛乳を飲めないことに気づくと、牛乳のことばかり考えてしまう」「牛乳が欲しくてイライラした」といった声があがったのだ。
この結果から、人々が牛乳のことを考えるのは、牛乳が欲しい場面で牛乳がない時だけだという事実が判明。いわば、牛乳は「失って初めて気づくもの」の類であった。
そして、牛乳が欲しくなる場面とは、パンやシリアル、クッキー、カップケーキなどを食べる時であった。
こうしたインサイトに基づいて打ち出された広告施策が、「Got Milk?(ミルクある?)」キャンペーンである。
具体的には、食品雑貨店やコンビニエンスストアなどパンやクッキーなどを売っている店の近くに広告看板を出したり、POP広告を牛乳売り場でなくシリアルやクッキー売り場を中心に展開。さらに、ゼネラル・ミルズやネスレ、ナビスコなどの食品メーカーと協働し、商品パッケージに「Got Milk?」を入れたプロモーションを実施した。
牛乳が欲しくなる場面における、「失って気づく大切さ」の喚起である。
結果的に、その年のカリフォルニアにおける牛乳消費量は前年比70%増となり、数量で520万ガロン増加、小売額で15億円もの増益になったという。
これはまさに顕在化されたニーズではなく、潜在的なニーズを掘り起こしたコンシューマーインサイトのお手本のような事例である。
Got Milkキャンペーンはアメリカで最も成功したキャンペーンと言われ、その後20年にわたって姿かたちを変えながら継続。今なお伝説として語り継がれている事例である。