『グローバル・ブランディング ~モノづくりからブランドづくりへ~』
松浦祥子編著
碩学舎/2014年3月15日発行
日本企業の真のグローバル・ブランディングを、硬派に真摯に追究
工業立国ニッポンも今は昔。
かつて世界を制覇した日本製品は、アジアの新興国企業にキャッチアップされ、グローバル市場での日本発ブランドの地位は低下しているのが実情だ。日本製品は、「製品(品質)で勝っているが、ブランドで負けている」ともいわれている。
せっかく良い製品をつくっても、それを顧客にとって魅力的なブランドとなるように伝えてブランディングしなければグローバル市場での競争に勝つことはできないのだ。
そんな現状において本書は、日本企業のグローバル市場におけるブランド戦略を、編者である青山学院大学大学院教授の松浦祥子氏を中心に、国内外の著名ブランドを手掛けたブランディングの計5名のプロたちが、真のブランド戦略とは何かを示す内容になっている。
編者は冒頭で、このように書き綴っている。
「本書の目的は、グローバル市場で勝てるブランドをつくるためのブランド戦略を提示し、企業がグローバル市場で強いブランドをつくるための方法についての示唆を提供することである。」
冒頭から編者の熱い想いと高い志が感じられ、硬派で真摯な内容になっているので、至極読みごたえのある本という感想を持った。また副題として、「モノづくりからブランドづくりへ」とあるように、これまでの日本企業の姿勢と今後の在り方が端的に表されていると感じた。
モノづくりの上手な日本企業だからこそ、ブランドづくりも洗練されどこにも負けないのではないか、という希望が見えてきたのも事実である。
資生堂を1兆円企業に押し上げた「グローバルブランド『SHISEIDO』」
元来、日本企業において、ブランドおよびブランディングの重要性は軽視され、一般的に強く認識されてきたのは1990年代半ば以降だったという。
ネスレやP&Gのようなマーケティングを重視する欧米の消費財企業では、ずっと以前からブランドの育成と強化は経営の最重要課題として重視されてきたのに比べると、その意識はまるで子供と大人ほどの開きがある。
そこで日本企業のグローバルブランド戦略として資生堂の事例が取り上げられている。
資生堂は、2012年に創業140年を迎えた老舗企業である。資生堂の海外事業は、アジアへの進出が最も古く1929年の台湾への進出に始まる。しかし意外なことに、グローバル化へのロードマップは2008年に始まったとのこと。
「日本をオリジンとし、アジアを代表するグローバルプレイヤー」になることを目標に掲げ、目標達成に向けた今後10年のロードマップを策定したのだ。
このグローバル化のロードマップは3つのフェーズに分かれており、
第1フェーズは2008年からで、「全ての質を高める」。
以後2011年からの第2フェーズ「成長軌道に乗る」、
2014年からの第3フェーズ「躍進を果たす」となっている。
その成果は明白で、2008年度の売上約7,000億円から右肩上がりを続け、2017年度には1兆51億円にまで伸長。
いまや資生堂=グローバルブランド企業ということに異論をはさむ者はいないだろう。10年の取り組みで、がらりとそのグローバルイメージと圧倒的な売上向上を果たしたのだ。
ページ数はそれほど多くないが、資生堂のグローバルブランドのブランド戦略のあらましをつかむことができるので、この章は特におすすめである。
貴重なBtoB企業のグローバル・ブランディングの事例も網羅
個人的に興味を持ったのが、第5章で書かれたBtoB企業のグローバル・ブランディングの現状と課題、そして事例だった。
一般的に、マーケティング、ブランド戦略において不得手とも見られているBtoB企業で、TDK、村田製作所、コマツなど海外売上比率が高いことがデータや事例で示されている。
このデータは非常に頼もしく思うものであり、またマーケティングやブランド戦略の糸口が見えない企業の方々にとっても非常に参考になるのではないかと思った。
取り組みの事例としては、コマツや東レの成功例が詳しく紹介されている。詳細はぜひ本書を手にとっていただきたいが、当時から約5年が経ったいま、取り上げられた企業がどのように成長したのか、さらなる成果の続編も読んでみたいと思わせるものだった。