戦略よりも、遺伝子が重要?不思議で、ユニークなブランド論
著者である阪本さんのブランドセミナーに参加したことがある。とても実践的で、面白かった印象があり、そして手にとった本書。
まず思ったのが「ブランド・ジーン?」「繁栄をもたらす遺伝子?」という感じで、頭の中にひたすら?マークが浮かんでしまった。
阪本さん曰く、ブランド・ジーンとはブランドに命を吹き込む遺伝子とのこと。なんだかよくわからないままに、ブランディングの本だろうと思って読み進めていくと、不思議な記述だらけで、さらに頭の中に?が増えていくばかり。一言でいうと、確かにブランドの本だが、とても不思議な本。でも興味深く、また面白い本でもある。しかし正直に白状すると、実は途中で本書の紹介を諦めようかと思った。難しいのだけれど、読み進めていくとなんだかわかるような気がして、そして最後はそうだよなぁと納得してしまう本だった。
人間ではない何かが、ブランドの盛衰を決定する。それが「ブランド・ジーン」
生物界で古くからいわれている命題があるそうだ。それは「卵は、次の新しい卵を生み出すために雌鶏を利用する」というものらしい。浅学ゆえ初めて耳にした言葉だったが、主客の逆転したところの思考に妙がある。通常は、雌鶏が卵を産むのだが、そうではなく卵が「卵自身のために」雌鶏を利用して産まれるのだという。
この考え方をブランドに当てはめると、「人間でない何か」が、自分のやりたいことをするためにブランドを創造し、ブランドを利用する、となる。この「人間ではない何か」が、坂本さんの提唱するブランド・ジーンだ。
これだけでは、何だかオカルトチックであるが、本書ではこの主客逆転の思考を使ってブランドの本質に迫っている。つまり人間の都合や思惑とは無関係に、自分のやりたいこと(ブランド・エッセンス)を実現するために、ブランドに宿るジーン(遺伝子)が存在すると考えるのだ。
たとえば圧倒的な競争優位にあった企業があっという間に凋落したり、反対にマーケティング理論から完全に外れているビジネスが大成功するのも、すべてはブランド・ジーンの振る舞い次第。その前では、人間の努力は無力に等しいというのだ。
神道や原始仏教のように、ロジックよりも深遠なる説得力
経営者として、そして経営コンサルタントとして、長くビジネスの現場で繁盛の秘訣を追い求めてきた著者が、「こうすれば、こうなる」式の経営理論に疑問を感じて行き着いたのがブランド・ジーンであり、その着想のヒントは、『戦略的ブランド・マネジメント』の著者であるケビン・ケラーにあった。
経営理論の限界を認め、理論では説明できない何か特別な力の存在を認めると、ビジネスの多面的な現実がよりはっきりと見えるようになるという。ブランド・ジーンはいわば解毒剤。ビジネス書を頭に詰め込み、戦略的に考え、効率的に働けば成功するという誤った理解から自由になるための処方箋でもある。
本書には、経営論やブランド論にある専門用語がほとんど登場しないが、対象者はまぎれもなく経営者やブランド上級者である。具体的なケーススタディとしては、ソニーからアップル、そしてグーグルへと宿主を変えたブランド・ジーンの振る舞いを詳述。さらに『進撃の巨人』に、SEKAI NO OWARIに、矢沢永吉に宿ったブランド・ジーンの本質を解説していく。
本書を読んで、現在関わっているブランドについて棚卸をして、ブランド・ジーンの声に耳を傾けてみるのも一興だ。ロジックでは解決できなかった、真の解に辿り着けるかもしれない。