どのような規模の市場であっても、競合より優位に立ち消費者に価値を提供し続けるためには、緻密な戦略の策定と実行が欠かせない。ビジネスにおける課題の高度化・複雑化が進むにつれて、戦略もより高度で複雑なものが求められるようになっているが、ここでは基本かつ今もなお色褪せない有名な戦略のフレームワークをいくつか紹介しよう。
■ポジショニング戦略
商品やサービスについて独自の優位性を持つポジションを築き、ターゲットとなる顧客の頭の中に差別化されたイメージを植え付ける戦略のこと。簡単に言えば、市場における自社製品(サービス)の立ち位置を戦略的に決めることを指す。
ポジションを決めるということは、消費者の頭の中に入り込むということ。どんなに素晴らしいポジションを見つけたとしても、そのポジションが消費者の頭の中にイメージされない、あるいは、そのポジションを思い浮かべたときに自社の製品やサービスが消費者の頭の中に登場してこなければ意味はない。
どうやって消費者の頭の中に入り込むのか?一番簡単な方法は、そのポジションに一番乗りすることだ。世界で一番最初に月面を歩いたのはニール・アームストロングだが、二番目に月面を歩いた人は?簡単には答えられない。他のブランドに汚されていない未踏の地に入り込むことはポジショニングの常套手段だ。
ただし、最初に未踏の地を開拓することが重要なのではない。最初に消費者の頭の中に入り込むことが重要である。コンピュータを最初に発明したのはスペリーランドだが、消費者の頭の中にコンピュータという商品のポジションを確立したのはIBMだ。アメリカ大陸を最初に発見したのはコロンブスだが、彼は人々にそれを教えなかった。5年後にアメリカ大陸に渡ったアメリゴ・ベスプッチは、新大陸の発見を『新世界』に書き記して世界中に発表した。人々は彼こそが新大陸の発見者と信じて、新大陸を「アメリカ」と名付けた。
業界のリーダーになれないブランドにも、ポジショニングの勝機はある。たとえば、電気製品分野の「小型化」、食品や嗜好品の「高価格」という「業界の穴」を探す手法や、ライバルの穴を見つけてライバルのポジショニングを崩す手法など。
情報社会においては消費者とのコミュニケーションが成功すれば、トップブランドでなくても勝利を手にすることができる。逆に、コミュニケーションに失敗すれば、どんなに優れたブランドだとしてもうまくいかない。消費者とのコミュニケーションを制する手法として、ポジショニングはマーケターの間で重要視されている。
■リポジショニング戦略
競争、変化、危機に面した市場に対し、既存ブランドのポジショニングの見直しと再定義を図り、ブランドや企業の再活性化を狙う戦略のこと。
この「ポジショニング」という言葉は、1982年にアル・ライズとジャック・トラウトが共著「Positioning : The Battle for Your Mind」にて提唱した言葉である。
一般的に、消費者は旧製品よりも新製品に興味を示すはずだと思われていたが、アル・ライズとジャックトラウトは、実際に消費者は新製品よりも旧製品に興味を示すという統計的事実を元にこのような仮説を立てる。
「ポジショニングされた製品や企業の差別化要素とは、つまるところ消費者に馴染みのある物やくつろげるものに帰着する」
では、ブランドが消費者にとって馴染みあるものやくつろげるものになるためには、どのような手続きが必要となるのだろうか。
彼らはまた、「ポジショニングとは、製品をどこに置くかという話ではない。見込み客のマインドのなかに、どう位置付けるかという話である」とも述べている。
つまり、ポジショニングを再検討する上でのファーストステップは、顧客や消費者からどのようなイメージをもたれているかを明らかにすることであり、そこからブランドの社会的使命を再確認しながら、ポジショニングを新たに規定する必要があるのだ。
■差別化戦略
マイケル・E・ポーター(MichaelE. Porter)によって提唱された競争戦略の1つ。
ひとつの市場における製品やサービスについて、基本的な機能は同じであっても、デザイン面での付加価値やブランドイメージ、顧客サービス、プロモーション活動などによって、競合他社より優れていることを強調し、差別化を測ることで競争優位性を獲得する戦略のことを指す。
差別化の手法としては、「多機能化・高級化」「付加価値」「ブランド化」「付加価値サービス」などが考えられる。
差別化戦略は「顧客にとって価値が増加すること」が絶対条件である。自分たちがどんなに差別化に取り組んだとしても、顧客に認識されていない差別化、顧客に違いは認識されているが価値だと捉えられていない差別化は該当しない。
差別化戦略のメリットの1つに、競合他社との価格競争を回避できるという点が挙げられる。
差別化によって他の企業にはない商品やサービスを提供することになるため、消費者にとっては唯一無二の商品・サービスとなり、価格競争をしている競合に合わせて価格を引き下げる必要がなくなるのだ。
一方、差別化戦略で成功したとしても競合がその差別化した商品やサービスを模倣することで、差別化が図れなくなってしまうといったリスクも秘めている。
この状態に陥ると差別化のために投資した資金が無駄になるばかりでなく、新たな価格競争に巻き込まれてしまう危険性も孕んでいる。
その意味で簡単には真似することのできない差別化戦略を図ることが重要であり、成功したあとも競合の動向を常にチェックしておく必要があると言えるだろう。
■コスト・リーダーシップ戦略
マイケル・E・ポーター(MichaelE. Porter)によって提唱された競争戦略の1つ。
競合他社よりも相対的に低コストで製品やサービスを提供することで競争優位性に立つこと。つまり、コストを下げることで低価格を実現し、それを武器に顧客を集める戦略のことを指す。
この戦略を実行するためには、低コストでのモノづくり・サービスづくりが重要になる。高い技術力と同時に、業務効率化やシステム化による社内のコスト削減が求められる。
ゆえにコストリーダーシップ戦略は、市場ですでに高いシェアを誇っている企業や、市場にこれまでなかった全く新しい商品・サービスを展開する企業などが向いていると言える。
■ブルーオーシャン戦略
競合のいない新しい市場を創造し、高付加価値商品・サービスを低コストで提供することで、利潤の最大化を実現する戦略のこと。
フランスの欧州経営大学院(INSEAD)の教授であるW・チャン・キムとレネ・モボルニュが2005年に発表した戦略。
彼らは、価格や性能、サービスの差別化などで激しい戦いを強いられる、既存市場をレッド・オーシャン(赤い海)と定義し、逆に未開拓で競争のない市場をブルー・オーシャン(青い海)と定義した。
既存の競争が激しいレッド・オーシャンで商品・サービスを提供するのではなく、ブルー・オーシャンである新しい市場に、低コストで高付加価値である商品・サービスを提供するこの戦略。
このような、新しい価値市場を創造する考え方を「バリュー・イノベーション(価値革新)」と名付け、価値革新によって市場の境界線を引き直すことが大切であると彼らは述べた。
差別化戦略にも近いが、「新市場の創造」に軸足を置いている点が異なる。競争を挑むのではなく、競争のない市場を定義することがこの戦略では重要とされる。