『企業を高めるブランド戦略』
田中 洋著 講談社現代新書/2002年9月20日発行
さびることのない、ブランド戦略の本格入門書
今や日本を代表するブランド戦略の専門家、田中洋氏が17年前に出版した本書。ブランド戦略の世界はまさに日進月歩だが、発行から年月が経った今でも読んでたくさんの気づきが得られる王道のブランド戦略の良書である。電通での実践経験をもとに研究者になった田中氏だけに、難しいと思われることでも平易な言葉で説明されているので、これからブランド戦略を学びたい人に、まずおすすめしたい一冊だ。
特に印象に残ったのは、冒頭での「ブランドがマーケティングの中核に」という部分。ブランド戦略はマーケティング戦略の中核であり、逆にマーケティングを知らなければブランディングもなされないということを、著者はわかりやすく説明してくれている。紹介される成功事例もSONYやメルセデス・ベンツ、IBMなど王道のグローバル企業だが、ブランディングとマーケティングの切っても切れない関係がよくわかり、現在も世界に羽ばたいている企業がいかに優れたマーケティング戦略を実践してきたかを学ぶことができるのだ。
ブランドは自然に育つものではなく、意図的に育てるもの
田中氏のブランドについての一貫した主張は、「ブランドは意図的に育てるもの」ということ。少し長くなるが、田中氏の言葉を紹介しよう。
『確かに日本の長い商取引の中で、「三越」のような伝統的なブランドがいくつも形成されてきた。しかし今日では、ブランドは自然に形成されるものではなく、意図的に育てなければならない対象であり、そこにはブランドを効果的・効率的に構築するための戦略性が必要なのである。
「スターバックス」などに見られるように、今日ではブランドを短期的に育成し活用していくような経営・マーケティングが競争優位をもたらす市場状況が出現している。ハッキリ言えば、「よい品質の製品を提供していけば自然にブランドは育成される」という考え方自体が修正を迫られているのである』
まだ日本ではブランディングという言葉が広く知られておらず、「良い製品なら自然にブランドは育つ」という考え方が主流だった時代に、上記のような意義を唱えたことこそが、田中氏の慧眼であり、氏が評価される理由のひとつではないだろうか。
また、「あとがきにかえて」の部分にも印象的な言葉がある。
『ブランドは危機の産物である。ブランド構築の必要性に企業が目覚めるのは、その企業が何らかの危機におちいり、そこから回復しようとするときである。(中略)ブランド構築に成功した企業に共通する特徴とは何だろうか。それは危機に直面したとき、競合他社よりもいち早くブランド構築の必要性に気づき、それを実践したことである。』
ブランドは危機から生まれるという表現はユニークだが、確かにこれまでの歴史が示すとおり、市場シェアの低下や強力なライバルの出現、はたまた廃業の危機に瀕したときに、数々の優れたブランディングも誕生してきた。ピンチはチャンスと表裏一体であり、ブランディングはピンチをチャンスに変える武器になりうると、ブランディングの魅力と可能性を感じることができるのが、本書のいいところだろう。