『ブランド再生工場 間違いだらけのブランディングを正す』
関橋英作著 角川SSC新書/2008年7月25日発行
ブランディングではなく、ブランド再生。
著者の関橋氏は外資系の広告代理店のコピーライターから出発して、副社長まで務めた方。本書はブランディングというより、ブランド再生に関する本であり、関橋氏も言うように「日本にはブランド再生の本が少ないから本書を上梓した」とのことで、広告代理店のクリエイターとして実務に携わってきた人ならではのリアルな知見が多いところが特徴だ。ブランドの研究者や専門家の難解な記述ではなく、コピーライターらしい分かりやすい書き方に好感が持てる内容だった。
氏いわく、そもそもブランディングに対する誤解が多く、それを正す気持ちで本書を執筆したとのこと。日本でブランディングが注目されてから約20年(2008年当時)、ブランドは余裕のある企業が時間をかけて作るもの、と思い込んでいる、と言う。そしてその誤解を解くために本書を上梓した、とのこと。この指摘に関しては、本書が上梓されてから10年以上が経った現在でもそう変わらないのではないか。そういった意味でまだまだ新しく、ぜひ多くの方に手にとっていただきたい本だと感じた。
ブランド理論は、いったん脇へ。著者のストーリーに入り込もう。
本書はとても読みやすく、分かりやすいのが大きな特徴だ。再生工場というコンセプトもいい。そういった意味で、本書の目次を紹介しよう。
はじめに 工場長よりご挨拶
■第1工程 ブランド組み立て室
■第2工程 ブランディング・アイディアの創造
■第3工程 ブランド再生のための、コミュニケーション法
■第4工程 事例展示室「キットカット」
■第5工程 ブランド再生実験工房
■第6工程 ブランドサロン 自分をブランディングしてみよう
このように著者の関橋氏がブランド再生工場の工場長という役割で、読者の方にブランド再生工場を案内する、というストーリーになっている。
現在、日本の製造業や日本の経済、日本のモノづくりは、かつての勢いを失いつつある。まだまだ技術力や研究力は世界に劣らないレベルにあるが、ことさらブランドづくりという観点においては、後塵を拝しているという見解も多い。ゆえに、本書のコンセプトにはいたく共感した。日本経済のすばらしさは、丁寧なモノづくり、在庫を作らない、使う人が喜ぶものを作る、この3点に集約されるのではないかと同氏は述べる。そして、この考え方が有ったからこそ、世界で250年以上続いている企業の66%は日本の企業であるのだと。キットカットがなぜ大ヒットしたのか、こういった素朴な疑問にブランディングの真髄が集約されているのだと著者は語る。
詳しくは本書を手にとっていただければと思うが、ブランディングに関する知識や理論をいったん忘れて、どっぷりと本書の世界に入り込んでいただきたい。広く深く、様々な気づきが得られ、新たな思考や戦略づくりの大きなヒントになるのではないかと思う。