福岡空港は来るたびに降りたときの景色が変わっていて、今日も地下鉄のホームへ歩く道すがら、どこか違う空港に降りたのではないかと不安になり、あたりを見回してしまった。
工事している壁の隙間に見えた看板には「福岡空港で 福岡空港で」とあった。福岡という文字を見つけて安堵したものの、一つの看板になぜか二つの「福岡空港で」があり、二回重ねられていることで逆に疑わしくも思えた。
あの看板はなんだったのだろう?
福岡空港が日本有数の渋滞空港であることは、頻繁に利用する客ならずとも知られた事実かもしれない。今日は順調に着きそうかと思いきや、前を行く飛行機が鳥と衝突したとの連絡があり、50分遅れた。機内は一時騒然となったが、こればかりは仕方がない。山口空港上空での待機を命じられ、ようやく到着したのだった。
そんなこともあって、どこに着いたかわからなくなってしまったのかもしれない。
福岡空港は第二滑走路の増設で渋滞の緩和が期待されるが、コンパクトシティとして高い評価を受ける福岡の都市としてのブランド価値は変わらないのだろう。渋滞してでも行きたい魅力溢れる都市であることは間違いない。渋滞が緩和されれば、さらにブランド価値は高まるはずだ。
福岡らしさは、人それぞれだろう。スタートアップ企業を支援しているところだったり、日本の枠を飛び越えてアジア有数の都市の風格があったり、観光資源にも恵まれていて魅力がとにかくたくさんある。
僕にとっては、なんと言っても、ご飯が安くて美味しいこと。そして、人がやさしくて魅力的なことがたまらない。福岡の仲間と会って酒を飲むのは最高に贅沢で幸せな時間である。
博多オフィスにて、アートディレクターとの打ち合わせの内容は、デザインに「業界らしさ」が足りないことだった。大きくいえば同じ業界なのだが、まだ隣の業界らしく見えてしまっている。ブランドのデザインはらしさを捉えることが大前提になるので、これは大きな問題だ。
「らしさ」について、佐藤卓さんは明治おいしい牛乳を例に次のようなことを言っている。
パッケージは「構造と意匠」で考える。構造と意匠とは建築の言葉だが、明治おいしい牛乳でいうならば、スーパーで3メートル先から見える商品の風景が構造であり、1メートル手前から見える風景が意匠にあたる。構造はブランド構築にとって重要で、 構造を変えてしまうと別のブランドのように見えてしまう。シズルのような商品購買意欲向上に関するものは意匠にあり、ブランドの根幹は構造になるという。
松岡正剛さんは、情報は「地と図」がセットになっていると言っていた。地とはコンテクストであり、図とはコンテンツのことを意味する。地をどう捉えるかによって、図の見え方は変わる。地は情報の背景のようなものでぼんやりと見えていることが多く見逃されてしまうことも多いのだと。
佐藤卓さんのいう「構造と意匠」も松岡さんのいう「地と図」と近いものだと言えるのだろう。スーパーで3メートル手前からぼんやりと見える明治おいしい牛乳が「地(構造)」であり、1メートル手前からはっきりと見える明治おいしい牛乳が「図(意匠)」というわけだ。
らしさは構造と意匠のどちらかだけでよいのではない。いま、隣の業界らしく見えてしまっているのは構造(地)の捉え方や表現が間違ってしまっているのだ。佐藤卓さん曰く、構造はブランドの根幹である。意匠よりも先にしっかり捉えなければならない。
ところで、福岡の「らしさ」はなんなのだろうか?
一枚の写真で表すとしたら、ロゴで表現するとしたら何が適切なのだろうか。
それも構造と意匠で、地と図で考える必要があるのだろう。
たとえば、
「地」となる福岡は中洲の屋台文化で、「図」となる福岡は中国語を話す屋台の親父さん?
福岡は地と図の候補がありすぎて、妄想が尽きない。
そんな街だから、魅力に溢れているのも当然なのだろう。