コンシューマーインサイトとは、消費者の行動や態度の背景にある意識を深く洞察すること。
行動に結びつく内面心理を深掘りしたり、行動や購買に結びつくブランドと生活者の共通点や、ライフスタイルなど目に見えないものを解釈することで、新しいインサイトを発掘することを目的としている。
アンケートなどで消費者自身の言葉から出てくるニーズは、すでに表面化されたものであり競合他社も持っている情報の可能性が高い。
一方、コンシューマー・インサイトは消費者も言葉にできないような無意識的・潜在的なニーズを発見することにつながるため、新しい製品・サービスの開発や市場の開拓に有利となるのだ。
ナショナル:「家事がラクになる=子育てに手を抜いている」という深層心理を発掘
家電メーカーのナショナル(現パナソニック)は、2003年に食器洗い乾燥機の売上がピークに到達し、当時は洗濯機よりも食洗機の方が売れるほどヒットしていた。
しかし、2003年を境に売上はだんだん減少し、薄型テレビやななめドラム式洗濯機、サイクロン掃除機などイノベーティブな家電が次々と登場したこともあり、食洗機の市場自体は縮小していった。
そこでナショナルは、ニーズが高いとされていた子育て層をターゲットに販売戦略を練る。様々な調査を進めていくと、競合他社を含めた食洗機の主な打ち出しは、「最新の技術によって家事がラクになる」という文脈のもの。しかし、この訴求は本当に正しいのだろうか?もっと響く打ち出しがあるのではないか?
そう考えた同社は、子育て層の潜在的なニーズを探るために、日常生活を徹底調査してターゲットの深層心理を解明することにした。
すると、子育て層には「子育てをしっかりやることが愛情表現である」という潜在意識があり、「家事がラクになる=子育てに手を抜いている」と見られるのではないか、と考えていることがわかった。つまり、育児や家事の負担を家電で解消することに罪悪感があり、それが食洗機への需要にブレーキをかけていたのである。
そこでナショナルは、食洗機がもたらす価値の訴求を大きく変えた。すなわち、「家事をラクにする道具」から「子どもと一緒にいられる時間を長くする道具」への変換である。
こうした広告展開などによりターゲットの罪悪感を取り除き、深層心理にある欲求=コンシューマー・インサイトを発掘したことで、競合が撤退し低迷する市場の中で唯一、右肩上がりの業績を記録。
今や、食洗機市場はパナソニックがほぼ独占するほど、確固たる地位を築くきっかけとなったのである。