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強者の低価格戦略「コストリーダーシップ」とは?

CATEGORY : ブランディング成功事例

UPDATE : 2020.02.26

文責 : SINCE.編集部

コストリーダーシップ戦略(cost leadership strategy)とは、マイケル・E・ポーター(MichaelE. Porter)によって提唱された競争戦略の1つ。

競合他社よりも相対的に低コストで製品やサービスを提供することで競争優位性に立つこと。つまり、コストを下げることで低価格を実現し、それを武器に顧客を集める戦略のことを指す。

この戦略を実行するためには、いかに低いコストでモノづくり・サービスづくりの仕組みを作れるかが重要になる。つまり、高い技術力や生産力のみならず、業務効率化やシステム化による生産コストの削減が求められるということだ。

こうした性質から、コストリーダーシップ戦略は市場ですでに高いシェアを保持している企業や、市場にこれまでなかった全く新しい商品・サービスを展開する大企業などが向いていると言われている。

では、具体的にどのような戦略やアイデアが考えられるのだろうか。以下、コストリーダーシップ戦略を実現した4つの成功事例を紹介するので、戦略立案のヒントに役立てていただければ幸いだ。

Amazonは短期的利益を度外視して「競合の排除」に専念した

コストリーダーシップ戦略で世界トップへと躍進した企業と言えば、Amazonが例に挙げられることが多い。

同社は郊外に巨大に物流センターを持ち、それを一元管理することによって物流面における圧倒的なコスト競争力を実現した。さらに、今でこそ様々な企業が取り入れているが、Amazonは「送料無料」サービスの先駆けであり、同社の大きな強みであった。

ただ、実はこれは赤字覚悟の戦略だったという。大規模倉庫の投資費用だけでも短期間では利益を回収できないのに、送料無料がさらに追い討ちをかけていた。

それでもCEOのジェフ・ベゾスは短期的な赤字は構わないという考え方で積極的な投資を続ける。

その結果、世界中の消費者がAmazonを利用するようになり、通販市場のみならずあらゆる小売市場のライバル企業は次々と淘汰されていった。

さらにユーザー数の増加に伴って規模の経済も働くようになり、コスト競争力は他の追随を許さないものへと昇華されていく。

Amazonが徹底していたのは、「競合の排除」である。低コストやユーザー利便性に最大限の投資をすることで、競合を弱体化させて自分たちが市場をリードできるポジションを築く。加えて、低い利益率というコスト構造を市場の水準にすることで、高い参入障壁を築いて他社を敬遠する。

やがて市場はAmazonが独占するようになり、時間の経過とともに利益が生まれてくるわけだ。

近年、AmazonはAmazon GOやAmazon Echoといった新しいサービスを展開している。市場を独占し世界中の消費者が利用するようになったことで入手した膨大なビッグデータを活用して、利益の収穫に取り掛かっているといえよう。

目先の利益にとらわれない「超長期思考」。それを徹底しているのがAmazonの強みのひとつだと考えられる。

大胆なコストカットで倒産寸前の日産をV時回復させる

一時期、日本のお茶の間の話題を独占していた日産自動車のカルロス・ゴーン氏。彼は「コストカッター」の異名を持つ人間であった。

ゴーン氏がCEOに就任して間もない頃、日産は工場稼働率が50%近くまで落ち込んでいた。その原因は、乱立するプラットフォームや無駄な業務プロセスによる過剰な人員配置。利益を圧迫するこれらの要因に対し、ゴーン氏は容赦なく大規模な人員削減や工場閉鎖などを推し進めた。

また、親会社であるルノーとの関係を活かして、部品を共通化することによって購買の統合化を進めていき、部品コストも削減する。

こうしたコストカットを実施したことで、CEO就任の翌年の決算で最高益を達成することとなり、業績はV字回復。さらに、コストカットで生まれたリソースを新規開発に集中させることでエクストレイルやノートなどのヒット製品を生み出し、また次世代を見据えた電気自動車リーフを発売するなどのイノベーティブな挑戦にも積極的な投資を行った。

従来の日産にはなかった取り組みも功を奏して、日産のブランドイメージは向上し、利益率のみならず国内の販売シェアも徐々に回復していった。

また、積極的な海外進出もコスト競争力に大きく貢献している。 実際、中国やメキシコといった市場においては競合の日系メーカーに先駆けて進出していき、早くから現地化の活動を実施することで、ブランドを地域に根付かせることに成功。乱立していた日産の系列メーカも解体し、資本力と技術力を併せ持つ部品サプライヤを数社まで絞り込むことによって、その部品メーカーとともに海外進出を加速させていく。

これにより、現地化率を向上させることに成功。原価率向上や関税優遇などのメリットを享受し、さらに高いコスト競争力を実現しているのだ。

ゴーン氏が行った改革は、工数の効率化や人員の削減、工場の閉鎖、ルノーとの共同購入、海外展開など多岐にわたる。

ただ、そのいずれもがコストリーダーシップ戦略に基づいていた点は興味深い。この戦略は市場ですでに高いシェアを保持している企業に向いていると言われているが、倒産寸前の企業の回復戦略としても有効であることをゴーン氏は証明してみせたのだ。

大型バイク市場への布石となる、薄利多売のスーパーカブ

ホンダが世界に名を轟かせた最初のきっかけが、アメリカにおけるバイク事業の成功と言われている。

日本国内でバイクメーカーとして確かな地位を築いていたホンダは、新しい市場としてアメリカに狙いを定める。ただ、当時の欧米メーカーと比べると、ブランド力、品質、コスト、全てにおいてホンダは劣っていた。

そこでホンダが打ち出した戦略は、小型バイク市場でスーパーカブを薄利多売するというものであった。

当時のアメリカでは大型バイクが一般的。小型バイクというセグメントは重要視されていなかった。そこに目をつけたホンダは、薄利多売によって一気にマーケットシェアを拡大。同時に、販売実績を重ねてブランド力を向上させるとともに、規模の経済で原価低減を進め、生産ノウハウを蓄積することで品質を向上させていった。

こうして小型バイク市場を制覇したのち、培ったコスト競争力や品質力を武器に大型バイク市場に進出。マーケットを席巻したことは世界に衝撃を与えた。

大型バイクではなく小型バイクを売ることは、付加価値が低い商品を売るということ。企業戦略の王道は商品の付加価値を上げていくことであり、ホンダの戦略は特異かもしれない。

しかし、結果的にホンダはこの戦略で大きな成功が収められることを体現した。新規市場に対してコストリーダーシップ戦略で一気にシェアを拡大させた好例と言えるのだ。

価格競争力を高める要因は、徹底的な効率化とシステム化にあり

サイゼリヤは、創業以来、徹底した低価格を実現しながら成長を遂げてきた外食チェーン。中価格でイタリア料理を提供するファミリーレストランが多数ある中、それと比較にならないほどの低価格で品質の劣らないイタリア料理が提供されるとあって、主に若年層やファミリー層から多くの支持を得ている。

サイゼリヤの価格競争力の維持を可能にしている要因は、徹底した効率化・システム化にある。そのひとつが、商品の原料となる野菜の生産過程のシステム化だ。サイゼリヤは、福島県に100万坪の自社農場を所有している。収穫した直後の野菜を4℃の環境で保管し、休眠させた状態で輸送するコールドチェーンシステムを構築。鮮度が保たれたままでの加工、各店舗への配送を可能にしているのだ。

また、数千種類もの野菜を実際に栽培し、自社の提供する商品に合った品種の選定を徹底して行い、生産性の高さを求めて四角いレタスを開発するなどの品種改良にまで着手している。

さらに、サイゼリヤでは工場で可能な限りの加工を済ませた食材が各店舗に入ってくる。そのため、各店舗では包丁を使用することなく、少ない人数での調理が可能になる。また、メニュー数を抑え、広告費をかけないなどの努力も大幅なコストダウンにつながっている。

サイゼリヤでは、全チェーン店の業務状況を細かく把握し、生産性の向上を図るための専門部署が社内に設けられている。店舗の清掃を、掃除機からフロアモップに切り替えたところ、清掃時間が1時間から30分に短縮したという象徴的な取り組み事例があるが、衛生面や調理過程における様々な条件が数値化されて管理されているため、従業員にも論理的な思考が求められる。

製造・生産・流通・販売などのすべての過程を自社で運営し、そのあらゆる過程の徹底的な効率化・システム化によって実現する低価格。そして、構築されたシステムは、日々改善され続けている。サイゼリヤの強みはこうした進化であり、独自の経営戦略といえるであろう。

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