創業420年余り、日本最古の御香調進所である京都の「薫玉堂」は、2018年に東京・丸の内の商業施設「KITTE」に新店をオープンさせた。自社商品に合わせて、国内外の他社商品も扱うセレクトショップとなっている。
薫玉堂は、創業者が築いた御香調進所としての事業を受け継ぎ、長きにわたって寺院向けなどの仏前線香を販売していた。江戸時代に入ると、一般の人向けの線香販売も開始。以降、天然の香料を主な原料とする調香の技術を継承する役割を担いつつ、人々の暮らしに香りを届けてきた。
しかし、時代の流れに伴い次第に日本人の習慣自体に変化が現れる。主な原因は日本人の宗教離れ。ライフスタイルから宗教にまつわる習慣が切り離されていくことで、仏前線香の需要は減少の一途を辿り始めるのだ。業界自体が縮小傾向にある中、薫玉堂もその煽りを受け、卸売りの業績は落ち込んでいった。
そこで乗り出したのが、自社商品の「リブランディング」である。京都で培ってきた香りを、より広い地域に伝えていきたいという熱意もその取り組みを後押しした。2014年、16代目となる当主の決断により「香りの総合ブランド」を目指した取り組みはスタートし、薫玉堂に代々伝わる調香帳をもとにした新商品の開発を開始。コンサルティングパートナーに、伝統工芸やブランド再生を得意としている中川政七商店を迎えた。
こうして、薫玉堂は「現代の暮らしに合う和の香り」を形にしたリブランディングを果たした。京都の情景を香りで表現した線香は、京都の四季折々の材料と天然の香料を組み合わせたもの。続けてハンドクリームや石けん、キャンドルなど、伝統の香りを生かしながら現代のライフスタイルにもマッチしたオリジナル商品を次々と生み出している。また「KITTE」では、オリジナルのレシピで香袋を作製できるワークショップも開催。香りを楽しむ文化を若年層を含めた幅広い世代に伝える取り組みを行っている。
リブランディングは、長い歴史に対峙するほど慎重さが求められる取り組みである。しかし、時に伝統を守るためには柔軟さが必要だ。薫玉堂の香りの技術を守ろうとする熱意が、時代の流れと伝統の融合を実現したのだろう。