マルチ・ブランド戦略は
各ブランドの収益にご注意を
新規ブランドの立ち上げ、既存ブランドの展開、他社ブランドの買収…同じ製品カテゴリーに複数のブランドを展開するマルチ・ブランド戦略は、今や当たり前のものとなっている。
マルチ・ブランド戦略は市場の活性化や既存ブランドのポジション強化などのメリットはあるものの、その収益性や成長の可能性から目を離すと思わぬリスクを背負うことになりかねない。
スイスのIMD教授を務めるニルマルヤ・クマー氏の調査を紹介しよう。
アルコール飲料で世界最大手のディアジオ。クエルボやギネス、ジョニーウォーカーなど様々な銘柄の酒を世界各地に展開していた。しかし、総売上高の50%以上、総利益の70%は主要8つのブランドだけで成立していた。
P&Gには250以上のブランドがあったが、総利益の50%以上はパンパースやバウンティなどわずか10のブランドに依存していた。ネスレには8000を超えるブランドがあった。しかし、利益の大部分を生み出していたのは200程度、全体の2.5%に過ぎなかった。
この調査が示唆していることは、ブランドポートフォリオを見直すことの大切さだ。赤字ブランドや成長の望めないブランドを整理すれば利益は拡大する可能性が高い。
ユニリーバ:1200ものブランドを廃止して成功
世界有数の消費財メーカーであるユニリーバは、かつて1600を超えるブランドを保持していた。
利益を最大化するためには、ブランドの数を絞り込む必要がある。こう判断した経営陣は、下記3つの価値基準を設定し、ポートフォリオ分析を実施。価値基準のいずれかに該当するブランドだけを残すことに決めた。
■ブランド力
そのブランドが属する市場でナンバーワンやオンリーワンになれるブランド。石鹸のDOVEや紅茶のリプトンがこれに該当する。
■成長性
すでに顧客にとって強い魅力を持ち合わせているブランド、あるいは将来的に顧客のニーズに応える可能性が高いブランド。
オリーブオイルのベルトーリは、ヘルシーなライフスタイルと食生活を求める消費者のニーズにマッチしていたため、すでに販売されていた地中海風商品のラインナップに加えてポジショニングを修正した。
■ブランドの規模
マーケティングと技術革新への投資を可能にするだけの規模と売り上げを有するブランド。紅茶のPGティップス、調味料のマーマイトなど、必ずしもグローバルブランドではなくても、特定の地域で強いブランド力と一定の市場規模を備えているブランドが該当する。
この一大プロジェクトは「成長への道」と名付けられ、ユニリーバの社運を左右することになった。
慎重な調査を経て、最終的に同社は総利益の90%以上を占める400ブランドを残し、残り1200以上ものブランドの廃止を決定する。そして、整理する1200ブランドの予算を、残す400のブランドに再分配。その額は広告宣伝費だけでも年間5億ユーロに達したそうだ。また、400ブランドについても購買部門の統合やサービスの共通化、サプライチェーンなどの見直しを実施。
こうした取り組みで浮いた予算は、コアブランドのマーケティングやプロモーション活動に注ぎ込んだ。
それから3年後の2002年。ポートフォリオ内のブランド数が750まで減少した時点で、ユニリーバ全体の売上成長率は4.2%、400のブランドに関しては5.4%の割合で成長。営業利益成長率は目標となる16%を早々に達成したのだ。