ポジショニング戦略とは、商品やサービスについて独自の優位性を持つポジションを築き、ターゲットとなる顧客の頭の中に差別化されたイメージを植え付ける戦略のこと。
簡単に言えば、市場における自社製品(サービス)の立ち位置を戦略的に決めることを指す。
これから紹介するポジショニング戦略の成功事例は、たとえ売上が安定しているブランドであっても、絶えず自らのポジションを見直すことの大切さを教えてくれる。
業界トップの花王メリットは
コアターゲットの変化を見逃さなかった
花王のメリットといえば、日本では誰もが知っているであろうブランド。発売は1970年代に遡る、ロングセラー商品である。
メリットの発売当時のコンセプトは、「フケ・かゆみをおさえられる」というものだった。
ターゲットは若い女性で、悩みを解決するシャンプーというストレートさ、「ジンクピリチオン配合」という効果の訴求で、瞬く間にヒット商品となった。
以後、順調に売上を伸ばしていき、メリットはシャンプー業界のトップランナーの地位を獲得する。
しかし、時代が変わるにつれ、若い女性のシャンプーに対するニーズは「髪をサラサラにしたい」「ダメージを受けた髪を修復したい」など多様化していく。
ニーズに応える魅力的な新商品も続々と登場し、メリットにはどこか古臭いイメージが定着していた。
商品自体のブランド認知は非常に高い。依然として売れ行きは好調で安定している。
ただひとつ。当初想定していたターゲットは他の新商品にブランドスイッチし、確実にメリットから離れつつあった。
この状況を見逃さなかった花王は、潔くポジショニングを変える。
新しく見据えた市場は、ファミリー向けのシャンプー。「弱酸性」をキーワードに安心感を訴求し、「家族全員のためのシャンプー」というポジションを生み出す。
ブランド認知が高かった商品ゆえに、「安心感」というキーワードとの相性は抜群。新しい戦略は見事に的中し、売上はさらに伸長したのだ。
「母と子のシャンプー」という
ブルーオーシャンを発見
メリットの快進撃はこれだけにとどまらない。
2009年に発売した「メリット さらさらミルク」は、「親子で使えるトリートメント」というコンセプトを持つ商品。
当時、女児がトリートメントを使う割合は2割程度だった。綿密な調査を行ったところ、その親たちは「女の子の髪の毛は絡まりやすい」「くしの通りが悪い」といった不満を抱えていることがわかった。
そこにブルーオーシャンがあると判断した花王は、メリットが既に獲得していた「家族」のイメージを活用し、「母と子のためのトリートメント」という市場を開拓したのだ。
家族という大きなくくりから、さらに細分化したターゲットに新たな価値を提供したことで、同商品は大ヒット。
同社はこの成功体験を生かし、2013年には「父と息子のシャンプー」というポジションである「リンスのいらないシャンプー クールタイプ」を発売。
そして、2015年には家族共用のシャンプーから独立する女子中高生を狙った「メリット ピュアン モイスチャー 地肌クレンジングシャンプー」を発売。
家族の成長に寄り添うかのように、再び若い女性向けの商品に回帰したのである。
このように、メリットはポジショニングを変え続けることで、50年近く業界トップを走り続けることができているのだ。