Branding Knowledgebase SINCE.

11/17
NYスターシェフのパフォーマンスには、物語があった。

CATEGORY : 今日の一筆

UPDATE : 2018.11.18

文責 : 一筆太郎

朝の空気がすっかり冷たくなった。
 
 
車のエンジンをかけると、
アリシア・キーズのNo oneがラジオから聴こえてきた。
 
 
アコースティックバージョンのせいもあるのかもしれないが
歌声が伸びやかに車の中を包み込んだ。
しばらく車を走らせずに聴き入ってしまった。
 
 
冬の朝の空気は音楽を乗せるのがうまいのだろうか。
そんな愚にもつかないことを考えた。
 
 
 
昨日はガブリエル・クルーザーの食を体験に
Table 9 Tokyoへ妻と行ってきた。
 
 
ガブリエル・クルーザーはマガジンでも取り上げた
ニューヨークの店をオープンしてすぐにミシュランで星をとり、
瞬く間に人気に火がついた。
 
 
今ではニューヨークの巨匠などと呼ばれており、
今年はミシュランで2つ星を獲得したという。
 
 
日本で体験できるのはまたとないチャンスとばかりに
多くの人が訪れていてTable 9 Tokyoは高揚感に満ちていた。
 
 
 
ガブリエル・クルーザーが得意とするのは
出身地であるアルザス地方の郷土料理からインスパイアされたフレンチであるが、パフォーマンスが特に高く評価されている。
 
 
たとえば昨日のメニューの一つ、「メイソンジャーで香りを閉じ込めた黒トリュフ、白インゲン豆、菊芋のエスプーマ」は、最初にメイソンジャー(密封されたビン)がテーブルにおかれる。蓋が開けられると、メイソンジャーに顔を近づけるように促される。すると、煙とともに黒トリュフの香りが一気に広がるのだ。恍惚でいっぱいの僕の顔から一度それは引き離され、その場でソースなどが加えられる。戻ってきたメイソンジャーにようやくスプーンを差し入れることができるのだが、これが実に楽しい。たった一つのメニューで、目が、鼻が、舌が、喉が、あらゆる感覚を喜ばせてくれる。
 
 
そして、口の中に入れた後も楽しい。
 
 
アミューズの一つ。いくらを柔らかい生地で包んだものは、口に入れると、いくらをプチっと噛んで海の味わいが一気に広がる。それから少しして、生地のバターの風味が口全体を包み込む。後味にいくらの姿はなく、バターのやさしい風味がかすかに残るだけだ。
 
 
一つ一つが映画のように
始まりと終わりがあって物語がある。
 
 
食事が一瞬を切り取った写真のように
刹那的なものになってしまうことが多いなか
あまりにも幸せな時間だった。
 
 
ブランドには、時間が必要だ。
 
 
アディダスジャパンを立ち上げて1000億円の会社に成長させたクリストフ・ベズー社長は、ブランドとはストーリーだと言った。ブランドは物語を語らなければならないのだと。
 
 
ストーリーは時間でできている。
 
 
千野帽子さんは著書『人はなぜ物語を求めるのか』(ちくまプリマー新書)の中で次のように書いている。
 

できごとを語るということは、「できごとの前」「できごとのあと」という前後関係ができるということです。つまり、「時間の流れ」のなかで世界を把握する、ということになります。というより、「できごと」という把握と「時間」という概念・感覚は別個に存在するのではなく、時間を前提としなければできごとという把握はないし、できごとという捉えかたがあるからこそ時間というものを想定することができるのです。

 
ガブリエル・クルーザーが提供する料理には、食べている間にいくつもの物語があった。料理がテーブルに届いてから食べるまでの間にも、口に入れてからも、できごとの前とあとがあり、途中にサプライズもあったりして、決して単純ではないストーリーが散りばめられていた。
 
 
彼はフランス・アルザスの出身で郷土料理をベースにしている。きっと、物語はそこから始まっているのだろう。それから最先端の都市ニューヨークで店を構え、世界中を驚かすという展開の中に大きな物語の魅力があるのではないかと思う。
 

 
ブランドがストーリーであるならば、ブランドはストーリーを語るべきだ。それはベズー社長もよく言っていた。それだけでなく、「ストーリーを語られてしまうブランド」、つい語りたくなってしまうブランドというのはより強いものなのだろう。

RELATED ARTICLE

ご相談ください お問い合わせ