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日常の異変は気づきにくい。でも気になるとやめられない

CATEGORY : 今日の一筆

UPDATE : 2019.04.10

文責 : 一筆太郎

ファブリーズは、もはや市民権を得たブランドと言えるのではないだろうか。ファブリーズと聞くとどんなイメージを想起するだろう。空気をリフレッシュする?臭い匂いを消してくれる?きっと空気や匂いの洗浄をするイメージでしょう。この誰もが知っていそうなファブリーズが最初は苦戦していたこと知っていました?
 
ファブリーズが誕生したのは1990年代の半ば。アメリカのP&G社は悪臭を安価で消すことができる液体の開発に成功した。専門家を集めたマーケティングチームが結成され、名前はファブリーズに決定。英語の「fabric(布)」と「breeze(そよ風)」を合わせた造語によるものだ。マーケティングチームは、日常の嫌な匂いを消すというベネフィットがわかりやすくニーズも強いだろうと予測し、爆発的な売上を期待した。しかし、結果は逆。売上が下がっていってしまったのだ。
 
その原因をコンシューマーインサイト調査によって探ると、「日常の嫌な匂い」は生活の中にあるものだが、これを生活している本人は、嫌な匂いだと思っていなかったことが判明したのだ。ペットの匂いやタバコの匂いは確かに嫌な匂いだと言える。だが、生活している身からすると実は気になっていないことが多い。うちにも犬がいて、一緒に寝ているが、さしてクサイと感じることはない。
 
「日常の嫌な匂いを消す」というベネフィットは、実はニーズとして多く顕在化しているものではなかったのだ。人は自分の匂いがわからないように、犬があれほど良い嗅覚を持っているのに自分の排泄物を嗅いでも気絶しないように、自分を中心とした日常には、というか自発的には嫌な匂いを感じにくいものなのだろう。ここからファブリーズのマーケティングチームは消費者へのデプスインタビューによって改善策を見つけ、「掃除を終えたご褒美」や「日常にフレッシュな香りを加える」といったベネフィットに変えて訴求することで爆発的なヒットにつなげた。
 
ここまではファブリーズのマーケティング成功事例と呼べるものなのだが、今となっては、日常は嫌な匂いがするというイメージがついてきているのではないかと、成功事例を読み返していて思った。例えば、柔軟剤のレノアも売上を高めた手段は防臭機能を打ち出したことだった。
 
もう少し日常を掘り下げてみると、日常の中に匂いが気になる瞬間というのは確かにある。だがそれが異常なものでない限り、また、継続的に匂い続けているものでない限り、忘れてしまうだけなんじゃないだろうか。その、日常に潜む、ちょっとした異臭と商品をつなげるコミュニケーションをし続けることによって、我々はいつしか日常は、というか自分は臭い瞬間がある生き物だということを意識するようになったのではないだろうか。
 
意識していないことを意識させることは、とても難しいことだと思う。それは自分のクセのようなものかもしれないが、そういうポイントを意識させてしまえれば、対処する商品は売れ続けることになる。クセを直すことの可能性の方がずっと低いように、日常に起きている異変は治りにくいし、そもそも気づきにくいから、購入頻度も高まるだろう。
 
ファブリーズの成功事例は、商品開発とマーケティング両方の素晴らしさを示した例といえよう。

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