インナーブランディングとは、「社内へ向けたブランディング」のこと。自社で働く社員やアルバイトなどのスタッフに、ブランドの理念や企業が進もうとしている目標、ブランドの価値などを知ってもらい、社内外の様々な効果につなげる施策である。
実際にどのような戦略と効果があるのだろうか。有名な成功事例を見てみよう。
東京ディスニーランドと東京ディズニーシーを運営する「株式会社オリエンタルランド」は、この2つのテーマパークの「夢の国」のイメージを揺るぎないものにすることに成功している。2013年に2パーク合算の年間入園者数が初めて3000万人を超え、それ以降2017年までの5年間、多少の増減はあるものの3000万人超えを記録し続けてきた。その理由には、テーマパークとしての質の高さに加えて、キャストの接客や対応の質の高さがあった。
この夢の国では、働く従業員を「キャスト=役者」と呼ぶ。顧客は「ゲスト」だ。そして、キャストはゲストに魔法をかける重要な役割を担っている。パークはただのステージで、ゲストの感動体験をつくるのは、あくまでもキャストなのだ。
同社は、キャストの接客の質を高めるために、接客ルールを覚え込ませている訳ではない。東京ディズニーリゾートには、キャスト用のサービスマニュアルというものが存在しないのである。
キャストにとって必要なのはマニュアルではなく、「ゲストにハピネスを提供する」という企業理念を理解し従うこと。企業は、キャストという名の従業員をテクニックに走らせるのではなく、その「考え方」を徹底的に植え付けたのだ。そのためには、まず企業側がそれを明確にする必要がある。「何を目指すのか」が明確になり、そのための「行動指針」さえ浸透させれば、あとはキャストが同じ方向を向き、自発的に動き出すのである。
さらに、東京ディズニーリゾートでは、キャストのモチベーションを維持するための制度を充実させてきた。キャスト同志の信頼関係の構築、アイディア公募制度、仲間同士で相手のよさを讃え合う「スピリットアワード」、上司から部下であるキャストに贈られる「ファイブスターカード」、キャストが休日や空いた時間に自分の担当ではない仕事を体験できる「デュアル・キャスト・エクスペリエンス制度」などがそれに当たる。
インナーブランディングによって、キャストの「夢の国」という自社ブランドに対する愛着はさらに深まる。そして、そのキャストたちが、ゲストに最高の接客をすることで、ゲストに「夢の国」を何度も訪れたいと思わせる感動体験を生み出すことに成功しているのだ。