企業や商品、サービスのロゴがどんなふうにつくられているのか。ロゴをつくるときに大切なことはなんなのか。ブランドにとってロゴはどんな存在なのか。
こうした謎を解き明かすために、大東文化大学の非常勤講師を務めるグラフィックデザイナー・みかん先生のデザイン事務所を訪ねたSINCE.新人ブランディングディレクターの松山。前回に引き続き、先生にロゴとデザインの奥深い世界を案内してもらいます。
■これまでに教わったこと
(1)そもそもデザインとは、誰かの何かの「意味や意図」が込められた「形」であり、「見えないものを見えるようにする」こと。
(2)ロゴの目的は企業や商品・サービスをわかりやすくアピールするもので、まさに形のないものの「見える化・視覚化」の最たるもの。
(3)ロゴは単なる形ではなく、メッセージ性の強い企業やサービス理念の込められたデザインである。
先生、ロゴを読み解けるようになりたいです
松山「前回は有名企業のロゴに込められたメッセージや意図を色々と教えていただきました。こうして意味がわかってくると、ロゴっておもしろいもんですね」
みかん「そうでしょ?一見シンプルだったり、よくわからないロゴだったとしても、意外とみんなちゃんと考えて作っているんです」
松山「なんかいいですよね。街を歩きながら“あそこにマルイがあるでしょ?あのロゴって実はね…”なんて話したりして。“君が履いているそのスニーカーはね…”なんてね」
みかん「そんな話ばっかりだと気持ち悪いよ」
松山「でも、ロゴデザインが企業や商品・サービスの本質を的確に捉えて可視化する行為だとしたら、それってコピーライティングの仕事に少し似ている気がするんです。だから、ロゴに込められた意味を読み解くことで、良いコピーを書くヒントになるんじゃないかと思って」
みかん「じゃあ、ウチがデザインしたロゴでちょっと練習してみる?いくつかロゴを見せるから、そこに込められたメッセージを当ててみて」
みかん「まずこれは、2017年12月に品川プリンスホテルの最上階にオープンしたダイニング&バー『TABLE 9 TOKYO』のロゴです。このロゴにはどんな意味が込められていると思いますか?」
松山「これは簡単ですよ、みかん先生。店名の上にあるチョコレートみたいな9色の棒は、9つのテーブルを表しているんですよね?」
みかん「そうです。でも、テーブルであると同時に、窓でもあるんです」
松山「窓?この店には窓がたくさんあるんですか?」
みかん「そうではなくて。TABLE 9 TOKYOは広々としたフロアに9つのエリアの異なるダイニングやバーがあります。それらを移動しながら景色を楽しむ“移ろい”が全体のコンセプトでした。なので、9つの窓から様々に景色が移ろっていく、という意味が込められているのです」
松山「なるほど。これは奥深いですね」
みかん「奥深いでしょ?こんな感じでどんどん見ていきましょう。次はJ.P.RETURNSという、不動産投資会社のロゴです」
松山「ほほう。“J”のような物体が3つ並んでいますね。そして、右に行くにつれて大きくなっている…あ、整いました。J.P.RETURNSの頭文字“J”が大きくなることで、会社がどんどん儲けていくさまを表している、ですよね?」
みかん「近いけれど、企業ロゴで自分たちが儲かるアピールしていたら嫌な感じだよね。この“J”は企業の頭文字であると同時に、階段状にお客さんの資産が増えていく様子を表しています。重要なのは、支柱から影が出ているように見えること。これには、J.P.RETURNSがお客さんの成長を陰日向となって働き支える。という意図が込められているのです」
松山「おおっ。これまた奥深い」
みかん「どんどん行きましょう。これは私が非常勤講師を勤めている大東文化大学の書道研究所のロゴです」
みかん「文字の横にある横線のシンボルはなんだと思いますか?」
松山「これは難しいな…。ぶんちん?」
みかん「違います」
松山「うーん。書道は一本の線を書くことから始まるから、初心を大切にするとか、原点に立ち返るとか?でも線が8本あるし、長さが違うのはなんでだろうな…」
みかん「はい、時間切れです」
松山「あっ、そんなルールあったんですね」
みかん「このシンボルは、“書”という文字から縦線を消したものです。どうして縦線を消したのか?それは、書道の世界って歴史が長いがゆえにどうも固いところがあって、師匠と弟子の関係もかなりハッキリしています。書道研究所はそんな縦組織の、横をつないでいく存在でありたい。その思いを込めて、“書”の横線だけで構成したシンボルにしたのです」
松山「みかん先生。僕、気づいたことがあります」
みかん「はい何でしょう?」
松山「こんなに考え尽くされたロゴの意図を、見るだけで読み解くなんて、素人にできることではないですわ。それができたら、僕もロゴつくれますもん」
みかん「まぁ実際にデザインできるかは別かもしれないけど。でも、どんなにシンプルなデザインでも、それぞれに意味をしっかりつくっていることがわかっていただけたかと思います」
松山「はい。ロゴに込められたメッセージを覗くと、その企業やブランドのことがよくわかるというか、記憶に残るし、誰かに話したくなりますよね」
みかん「そう。だから、さっき松山さんが言ったように、“誰かに話したくなる”という側面はロゴにとってけっこう重要なんです。ロゴにはコンセプトや意図・意味があるとお伝えしてきましたが、こう言い換えるとわかりやすいと思います。ロゴには物語がある」
松山「かっこいい。ストーリーってやつですね」
みかん「どちらかというと、ストーリーテリングという訳がふさわしいかもしれません。このロゴはどうしてできたとか、こんな意味が込められているとか、みんなが誰かに話したくなるようなロゴ。あるいはお客さんから聞かれたときにきちんと話せるようなロゴ。それなら覚えてもらいやすいし、今日我々が色んなロゴについて話しているように、知らないところでも話の俎上に上っているはず。物語り、物語られるのが良いロゴの条件とも言えます」
松山「なるほど。物語を形に変換することがロゴデザインで、そのロゴについて語れるかどうかが大切なんですね」
みかん「そうです。このようなロゴデザインの考え方をコピーライティングの仕事に応用してみると、また違った景色が見えるかもしれませんね」
松山「はい、言葉を考えるときの新しい視点が得られたような気がします。今日はありがとうございました!」
【プロフィール】
美柑 和俊 (みかん・かずとし)
株式会社MIKAN-DESIGN代表取締役、グラフィックデザイナー。
1977年山口県下関市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。2001年、株式会社編集工学研究所入社。2005年、MIKAN-DESIGN設立。書籍雑誌等、出版物のデザインを中心に、Web、アプリケーションのGUI、映像、イベントグラフィックなどの様々なメディアのデザインに携わる。
大東文化大学書道学科非常勤講師。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学会「カメレオンプロジェクト」会員。JAGDA会員。