広告の仕事を辞めて、自分で会社を始めてみて思ったことがある。
それは、クリエイティブディレクターという職種というか言葉は通じないということだった。
「一筆さんは何ができるのですか?」と不動産投資の会社社長に聞かれて、「クリエイティブディレクションができます。」と答えたとする。相手ははっきりとわかるクエスチョンマークを顔全部で表現する。だからもう一度聞く「一筆さんは何ができるのですか?」僕は考えて「プロモーションの企画とか映像とかコピーとかつくれます」と言ってみるが、それでも通じない。広告業界と関係がなかった社長にとって、僕の言葉は外国語のように感じるのだと思う。
僕は広告会社で働いているときは広告業界の広告制作会社のクリエイティブディレクター、ないしはプロデューサー、プランナー、コピーライターという肩書きの仕事をしていた。
これは広告というカテゴリーの中で機能しているワードであり、広告カテゴリーの外では機能しないものだったのだ。
企業はブランドで決まるのではない。企業が行うビジネスの「カテゴリー」で決まるのだ。
と、「スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?」の著者ジョン・ムーアは書いた。
スターバックスコーヒーは、コーヒーカテゴリーにおいて、スペシャルティコーヒーという新たなカテゴリーを設定し、その啓蒙を行うことが成功要因の一つだった。
iPhoneは電話付きパソコンということもできる。つまり、パソコンカテゴリーに投入することもできたが、電話カテゴリーに投入したことによってパソコン付き電話という新カテゴリーを創出し大成功を収めた。
そういう意味で、企業はカテゴリーが大事なのだと言っているのだ。
これは人に置き換えても通用するのではないだろうか。
先ほどの広告カテゴリーの例を見てみよう。
広告カテゴリーの中にはブランドがいろいろある。電通や博報堂などの代理店であったりサンアドやライパブなどの老舗制作会社であったり、それはもう群雄割拠である。さらに、その会社の中にも職種カテゴリーがある。それがクリエイティブディレクターだったり営業だったりする。
自分の職種がクリエイティブディレクターであった場合、機能的には「企画」「コンセプト開発」「クリエイティブディレクション」などいろいろある。この機能はそのままに、カテゴリーを広告から車なんかのメーカーに置き換えてみる。そうすると「商品開発」「マーケティング」などがその機能の受け入れ先になる。
iPhoneの例でみたように、電話とパソコンという二つの機能を持っていた場合、電話カテゴリーかパソコンカテゴリーか?というカテゴリー選定によって、その価値は大きく異なるのだ。『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』ではないが、見方を変えることが重大な意味を持つ。
広告カテゴリーは特殊なカテゴリーである。だが、機能面だけを切り取ってみれば、広告以外のカテゴリーでも大いに活躍できるチャンスはある。カテゴリーを見極めることが自分の価値を最大に発揮することにつながるのだ。また、スターバックスやiPhoneのように新たなカテゴリーを創出できたならば、その価値はさらに高まるだろう。
企業はブランドで決まるのではない。企業が行うビジネスの「カテゴリー」で決まるのだ。
を人に置き換えるならば、
あなたは会社で決まるのではない。あなたが行う仕事の「カテゴリー」で決まるのだ。
と言えるのではないだろうか。