『ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略』
小西圭介著
ダイヤモンド社/2013年1月31日発行
ソーシャル時代のブランディングは、共創がテーマ
本書は、ソーシャル時代のブランディングについて書かれている。
著者はブランディングについて、このように定義している。
ブランディングとは本質的に、共有された価値に基づく有形無形のコミュニティ資産を形成する行為である。
それは企業や製品と顧客とのつながりにとどまるものではない。生活者やパートナー、社会的コミュニティとの継続的な関係基盤を築き、その力を借りながら、新しい事業や価値を生み出していくための新しいシステムを創ることこそが、今日的なブランディングの意味である。
「ブランド」の意味するもの自体が、かつてないほど大きく変化している。そして同時に、企業にとって革新のチャンスであると著者は説く。従来の「ロゴやイメージ管理」といった一元的なブランド・コントロールによる弊害から企業を開放し、ユーザーも含めた価値観を共有する人々と新たな価値を生み出していく、新しいブランド・リーダーシップを発揮する絶好の機会でもある。
ソーシャル時代においてブランドは、企業にとって顧客やステークホルダーとの共有価値を定義し、コラボレーションやイノベーションを通じて、価値共創プロセスを駆動させるエンジンとなるものであるのだ。
ブランドの発信者は、生活者との共創が必要
今日のブランド構築は、協力者としての生活者との共創が必須である。
たとえ企業が伝えたい重要なメッセージであっても、溢れんばかりの情報処理に忙しい生活者は、自分に関係のないものについてはどんどん切捨てていく。興味すら持たれないのだ。
そこでマーケティング・メッセージの「自分ごと化」が重要になっているが、これでさえも不十分だという。これからは、ブランドパワーと活力は、広告の「出稿量」よりも、生活者自身の「話題量」との相関がより高まっているからだ。
つまり情報を受け取った生活者が、話題にしたくなり、好意を共有したくなるような製品・サービスやマーケティング・コミュニケーションを創り出し、ブランドの会話が活性化されることこそが求められるのだ。これにより真に「活きたブランド」を生み出していくことにつながるという。
専門家はもちろん、経営層にも向けた戦略書
日進月歩の様相を呈するテクノロジーとメディア、さらにはデバイスや新しいコミュニケーション手法。こうした事象をキャッチアップすることに追われ、汲々としている方もいらっしゃるのではないだろうか。
しかし、大切なのはこれらの手法ではなく、生活者のインサイトや社会の変化における本質を見失わないことではないか。インターネットやSNSが発達した時代において、人々がこれまでにない形でつながり、新たな「価値」を生み出していく。そしてまさにそれがビジネスの構造すらも大きく変えてしまう要因になるのだろう。
本書は、マーケティングの実務家はもちろん、経営層に向けても書かれている。なぜなら日本企業の経営層は、経営・事業戦略レベルで新しいビジネスの価値創造と、顧客の創造に成功しているとはまだまだ言い難いのが実情だからだ。
本書を読んで感じたことは、そういった層の基礎となる理論であり、ベースとしてふさわしい本格的な戦略書だということである。難解な記述を理解するのが難しいページもあったが、全体的には読んでおいて損のない本だと思った。