マーケティングとは何か。
広辞苑 第七版によると、マーケティングとは「商品を大量かつ効率的に売るために行う、市場調査・広告宣伝・販売促進などの企業の諸活動」とある。だが、マーケティングは単なるビジネスの手法ではない。もっと普遍的なものだとコトラーは言っている。マーケティングとは、自分と自分以外との差別化を図り、ターゲットを絞り込むことを意味する。
自分が提供できる価値はなんなのか。自分にとってターゲットは誰なのか。自分のターゲットが好み、あるいは欲しているモノやサービスはなんなのか。この自問を続けることが重要だという。
この上の文章の「自分」を「自社」と、「ターゲット」を「顧客」と言い換えてみると、ビジネスにおける収益性の高い顧客リレーションシップを構築することという意味にとれる。
また、「自分」は「自分」のままに、「ターゲット」を「結婚相手」と言い換えれば婚活に、「ターゲット」を「就職したいと願う会社」に置き換えれば就活を実現するための方法となる。
つまり、マーケティングとは、ターゲット(顧客)にとって価値のあるモノやサービスを通して、ターゲット(顧客)の問題解決のお手伝いをすることなのだ。それにはターゲット(顧客)の特定と、ターゲット(顧客)の問題の特定が先決となる。
ここではマーケティングの理解を多角的に深めるために、マーケティングに関する用語をいくつかピックアップして紹介しよう。
■マーケティング・ミックス
マーケティング目標の達成に向けて、複数のマーケティング戦略を組み合わせる手法のこと。
1960年代に提唱されたフレームワークでは、商品自体のネーミングや性能、デザインなどの戦略を練る「商品戦略(Product)」、販売価格やコスト、取引条件やライフサイクルを定める「価格戦略(Price)」、販売場所や販売経路などのチャネルを定める「流通(Place)」、商品の販促戦略を立案する「プロモーション(Promotion)」の「マーケティングの4P」といわれる戦略を効果的に組み合わせて実践するマーケティング理論が定められた。
しかし、1970年代に入ると産業のサービス化が進み、サービスの分野にもマーケティングミックスが用いられるようになる。そのフレームワークを提唱したのは、フィリップ・コトラー。彼はサービスの分野では従来の4Pに加えて、サービスを提供する人材における戦略「人(People)」、サービス効率向上や顧客体験に力点を置く「プロセス(Process)」、サービスという無形物を演出するためのツールや装飾の戦略「装飾物(Physical Evidence)」が必要になるとして「マーケティングの7P」を提唱した。
こうした7つの戦略を効果的に組み合わせることにより、競合他社との差別化を図り、最大限の結果を生み出そうとする動きが、マーケティング・ミックスの基本概念である。
■STPマーケティング
新規に市場を開拓する際に有効とされるマーケティング手法のひとつ。フィリップ・コトラーが提唱し、現代における代表的なマーケティング手法として知られる。
競争優位性を設定するための3要素
・セグメンテーション(Segmentation)
・ターゲティング(Targeting)
・ポジショニング(Positioning)
これらの頭文字をとってSTPと呼ばれている。
セグメンテーションとは、市場を細分化すること。年齢はもちろんのこと、性別や職業、家族構成、国、地域、年収、趣味嗜好、性格など、ありとあらゆる軸が考えられるが、自分たちにとって意味のある基準で分類することが重要である。
ターゲティングとは、ターゲットとなる市場や層を絞り込むこと。セグメンテーションで市場を細分化したあと、市場規模や状況、自分たちの強み、競合他社などを分析したうえで、もっとも最適な市場やターゲット層を決めるのがこの作業である。
ポジショニングとは市場における自分たちのポジションを明確化すること。絞り込んだ市場やターゲット層において、自社の競争優位性や提供できる価値を見定め、競合と差別化できるポイントを決める作業となる。
こうしたフレームワークを活用することで、市場やターゲットの具体的なイメージが固まり、自社の独自性や競争優位性の発見につながり、強固なブランドを築き上げることができるようになる。
なお、STPはS→T→Pの順序に立案することがオーソドックスになっているが、すべてはポジショニングありきなので、Pから考えるべき、という意見もある。
■リレーションシップ・マーケティング
企業が顧客一人ひとりとの関係を構築し、長期に渡って製品・サービスをリピート購入してもらい、顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化するマーケティング手法のこと。サービス・製品の市場シェアを高めることよりも顧客との結びつきを深めることに主眼が置かれる。
リレーションシップ・マーケティングは、アメリカのマーケティング学者レナード・ベリー(Leonard L. Berry)によって1983年に提唱された。既存顧客との関係性(リレーションシップ)を重視し、一時的な売上よりも、長期的で良好な関係を顧客と築きLTVの最大化を図るというものである。
リレーションシップ・マーケティングの背景には、「売上の8割は全顧客の2割にあたる優良顧客が生み出している」という、パレートの法則(80:20の法則)を応用した考え方があると言われている。コストや労力のかかる新規顧客開拓に力を注ぐより、既存顧客との良好な関係を継続し、優良顧客となってもらうことを重視するのだ。
競争の激化、市場や事業環境の変化、経済の低成長などにより、新規顧客獲得のコストは増大している。限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)を有効に使うためには、今すでに自社の製品やサービスを利用している顧客との関係を継続させることが重要である。リレーションシップ・マーケティングでは、一度獲得した顧客に自社の魅力を発信し続け、ときには厳しい意見をもらいながらも関係を強固にする。また、著しく普及しているソーシャルメディアを活用することで、今後ますます発展していく可能性のあるマーケティング手法だと言えるだろう。