差別化戦略とは、マイケル・E・ポーター(Michael E. Porter)によって提唱された競争戦略の1つ。
特定の市場における製品やサービスについて、デザイン面での付加価値やブランドイメージ、顧客サービス、プロモーション活動などによって、競合他社より優れていることを強調し、差別化を測ることで競争優位性を獲得する戦略のことを指す。
差別化戦略のメリットの1つに、競合他社との価格競争を回避できるという点が挙げられる。差別化によって他の企業にはない商品やサービスを提供することになるため、消費者にとっては唯一無二の商品・サービスとなり、価格競争をしている競合に合わせて価格を引き下げる必要がなくなるのだ。
一方、差別化戦略で成功したとしても競合がその差別化した商品やサービスを模倣することで、差別化が図れなくなってしまうといったリスクも秘めている。この状態に陥ると差別化のために投資した資金が無駄になるばかりでなく、新たな価格競争に巻き込まれてしまう危険性も孕んでいる。
その意味で簡単には真似することのできない差別化戦略を図ることが重要であり、成功したあとも競合の動向を常にチェックしておく必要があると言える。
差別化戦略の巧みな企業として挙げられるのが、文具メーカーのキングジムである。彼らには社風として、万人受けする製品ではなく市場の10%の人が熱狂的に愛してくれるモノづくりが根付いているそうだ。
数あるグローバルニッチな商品群の中でもヒットしたのが、デジタルメモの「ポメラ」だろう。
ポメラは、フルキーボードでテキスト入力ができ、小型で立ち上がりが早いことを売りにした電子メモ帳である。
同商品がリリースされたのは2008年11月のこと。当時はすでに軽量のノートパソコンが安価で手に入り、iPhoneが登場した時期でもある時代。社内でも売れるはずがないという声が多かった。
しかし、フタを開けてみるとライターやブロガーなど、いつでもどこでもすぐに文章が打ちたいという層のニーズを満たし、9万台を超える大ヒット商品となった。
ポメラの成功要因に挙げられるのが、一部の機能だけに特化することでノートパソコンや携帯電話との差別化を図ったことである。すなわち、「起動の早さ」「持ち運びやすさ」「キーボードによる文字の打ちやすさ」「バッテリーの長さ」だけに注力することでノートパソコンにも携帯電話にもないポジショニングを確立し、他のあらゆる機能を削ぎ落としながらも、2万円前後と決して安価ではない価格帯で商品を販売することができたのだ。
その後、ポメラの改良版は液晶パネルを大型化したり、内蔵メモリー容量を増やしたり、文書をQRコード化して転送できる機能を追加したりなど、ユーザーのフィードバックを反映しながら利便性を高めていき、万人受けする商品ではないが根強いファンの心をがっちりと掴むことに成功している。