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Databricks Data + AI Summit 2026(DAIS2026)現地レポートの第6弾は、プラットフォーム全体を束ねる 統合ガバナンスと、その土台の上に広がっていくエコシステム/新領域の発表をまとめます。
新しいモデルや派手なエージェントのデモと比べると、ガバナンスやセキュリティの話題は地味に映りがちです。会場の歓声も、新エージェントの実演ほどには沸きません。ですが、実際にエンタープライズで採用が進むかどうかを左右するのは、まさにこの領域です。「AIを使えること」と「AIを安全かつ統制された形で全社展開できること」の間には大きな隔たりがあり、その隔たりを埋める仕掛けが今回いくつも示されました。本稿では、データとAIの両方を1つの枠組みで統治する思想と、それがどのように「コスト」というサミット全体の通底テーマへつながっていくのかを追っていきます。
すべての資産を1つで統治する「Unity Catalog」
土台はやはり Unity Catalog です。ここ数年のサミットでも一貫して中心に据えられてきた仕組みですが、今回あらためて強調されたのは、その適用範囲が「データ資産」にとどまらないという点でした。
テーブルやファイルといった従来のデータ資産だけでなく、AIモデルやエージェントまでを含め、「すべての資産に対する統合的なデータ+AIガバナンス」 を提供する——というメッセージです。権限管理・系統(リネージ)・監査といった統制を、データとAIで別々の仕組みに分けず、1つのカタログに集約していく発想です。

データとAIを同じガバナンス基盤に載せることの意味は小さくありません。これまで多くの組織では、データレイクやデータウェアハウスには厳格なアクセス制御が敷かれていた一方、後から増えていったモデルやエージェントは別系統のツールで個別に管理され、誰が・どのデータに・どのモデルからアクセスしているのかが横断的に見えにくくなっていました。Unity Catalog は、その分断を「1つのカタログ」で解消しにいく、という位置づけです。
オープンな共有:Delta Sharing と OpenSharing
統治した資産は、組織の内外で安全に共有できてこそ価値が広がります。その共有レイヤーを担うのが Delta Sharing です。
Delta Sharing は、クラウド・リージョン・プラットフォームをまたいでデータをやり取りできる最初のオープンプロトコルとして打ち出されてきました。今回は、その普及の度合いを示す数字として、300社以上のパートナー、前年比113%成長という実績が紹介されました。特定ベンダーのフォーマットに縛られず、受け手がDatabricks利用者でなくてもデータを共有できる——という「オープンであること」が、エコシステムの広がりとして数字に表れている、という見せ方です。

そして、その進化形として OpenSharing(データ+AIのためのオープン共有標準)が示されました。これまでデータ中心だった共有の枠組みを、AI時代の資産にまで押し広げるものです。新たに対応する範囲として、以下が挙げられました。
- オンプレミスのストレージパートナー
- AI資産(エージェント/モデル/スキル) の共有
- Iceberg
- グローバル配信
- SecureConnect
注目したいのは、共有の対象にAI資産(エージェント/モデル/スキル) が明示的に加わった点です。データだけでなく、学習済みモデルや、業務に組み込まれたエージェント、再利用可能なスキルまでを、同じオープンな標準の上で配布・共有できるようにする——という方向性は、後述する「AIガバナンスが全社の問題になった」という認識と表裏一体です。共有できるものが増えるほど、それらを誰がどう使うかを統治する必要も増していくわけです。

「AIガバナンスは全社の問題になった」
ここからが、エージェント時代の新しい論点です。基調講演では、“AI governance has become a whole company problem”(AIガバナンスは全社の問題になった)という一言が掲げられました。
その背景として示されたのは、AIが組織のごく一部の専門チームの持ち物ではなくなった、という現実です。コーディングツール、各種エージェント、SaaSに組み込まれたエージェント、MCP、スキル、モデル、そして「人+AIの同僚」……と、AIが組織のあちこちに同時多発的に広がっている。結果として、AIのガバナンスはもはや一部門の課題ではなく、”全社の問題”になったという指摘です。

なぜ「全社の問題」になると要件が変わるのか
「全社の問題」という言葉は、単なるスローガンではありません。これはガバナンスに求められる要件そのものを変えます。
AIが特定のデータサイエンスチームだけの道具だった頃は、限られた人数・限られたモデル・限られた用途を見ていれば統制は成立しました。ところが、営業部門がSaaS付属のエージェントを使い、開発部門がコーディングエージェントを動かし、各種業務システムがMCP経由で外部ツールを呼び出す——という状態になると、「どのチームが・どのモデルやエージェントを・どのデータに対して・どれだけ使っているのか」を、組織横断で一元的に把握できなければ統制が破綻します。
つまり、ツール単位・チーム単位でバラバラに管理する従来のアプローチでは追いつかず、すべてのAI利用が必ず通る共通の関所が要る、ということです。次に出てくる Unity AI Gateway は、まさにこの「関所」を提供しようとするものでした。
その答え「Unity AI Gateway」
そこで登場するのが Unity AI Gateway です。すべてのモデル/エージェントの統一的な入口(ゲートウェイ) として機能し、組織内のAI利用を1か所に集約します。具体的に提供される機能として、次の2点が示されました。
- ユーザー・チームごとの AI支出予算(spend budget) の設定
- すべてのモデル呼び出しに対する 安全性・コンプライアンス・監査・アイデンティティ の強制
第1回で触れた「データへの接続は難しいが、コスト管理はもっと難しい」という課題に対し、Unity AI Gateway はガバナンスの面から正面から応える機能だと言えます。誰がどれだけAIに支出しているのかを部門・個人レベルで予算化し、なおかつ1回1回のモデル呼び出しに安全性・監査・アイデンティティのチェックを効かせる——前述の「共通の関所」を、コスト管理と統制の両面で具体化したものです。

すべてのモデル呼び出しに予算と監査を効かせることが、なぜ”コスト”の話につながるのか
サミット全体を通じて繰り返し語られたテーマの1つが「コスト」でした。エージェントが自律的に動くようになると、人間が逐一指示する場合と違って、モデル呼び出しの回数や規模が見えづらく、際限なく膨らみかねません。エージェントが別のエージェントを呼び、ツールを連鎖的に叩く——という構造では、気づいたときには想定外の支出が積み上がっている、という事態が起こり得ます。
Unity AI Gateway が「すべてのモデル呼び出し」に予算と監査を効かせるという設計は、ここに直結します。利用を必ず1つのゲートウェイに通すからこそ、支出を予算という上限で抑え、どの呼び出しがコストを生んでいるかを監査ログから追える。安全性・コンプライアンスの強制が「リスクのコスト」を下げる一方で、予算機能が「金銭的なコスト」を下げる、という二段構えです。第1回で挙げられた「コスト管理はもっと難しい」という問題意識が、ガバナンス機能という形で回収されているわけです。
セキュリティ領域:Panther 買収と「Security Lakehouse」
ガバナンスの延長線上にある領域として、セキュリティ関連の発表も行われました。
デモでは、セキュリティ運用ダッシュボード 「Lakewatch」 が披露されました。画面では「セキュリティデータについて何を知りたいですか?」という問いかけから出発し、そこから先はエージェントがインシデント調査を自律的に進めていく、という流れが示されます。デモ中の表示としては、47/47 のデータソースが健全であること、7,940万イベントといった規模感が画面に出ており、これだけの量のセキュリティデータをエージェントが横断的に扱っていることが伝わってきました。

そして、その背景にあるのが Panther 社の買収です。これを受けてDatabricksは、「Security Lakehouse」 という新カテゴリを打ち出しました。セキュリティデータもまた膨大なデータ資産であり、レイクハウスの上で集約・分析し、エージェントで運用する対象になる——という整理です。ガバナンスとセキュリティを同じデータ基盤の上で扱う、という点で、Unity Catalog を中心とした全体の思想と一貫しています。

マーケティング領域:CustomerLake(Agentic CDP)
もう一つ、新しい領域として示されたのが CustomerLake です。
位置づけは、「レイクハウス上に構築された Agentic CDP(カスタマーデータ基盤)」。従来のCDP(Customer Data Platform)を、エージェントが主体的に動く形に発展させ、マーケターに”エージェントの戦力”を提供する、というコンセプトです。顧客データもまたレイクハウス上の資産であり、それを統治しながらエージェントに活用させる——という流れは、ここまで見てきたガバナンス/セキュリティの話と同じ構図の上に乗っています。

ライブデモでは、「次に何に取り組むべき?」という問いに対して、エージェントが「大陸横断便を利用するビジネス旅行者向けのパーソナライズされたアップグレードキャンペーン」 を提案する、という流れが示されました。単にデータを集計するだけでなく、次の打ち手そのものをエージェントが提案してくる——というのが、”Agentic”を冠する所以だと感じます。

まとめ
ガバナンス/エコシステム領域の発表は、「広がり続けるAIを、全社レベルで安全かつ低コストに統治する」 という一点に、一貫して貫かれていました。あらためて全体を振り返ると、次のように整理できます。
- Unity Catalog:データもAIも、すべての資産を1つの枠組みで統合ガバナンス
- Delta Sharing / OpenSharing:オープンな共有を、AI資産・オンプレ・Iceberg まで拡張
- Unity AI Gateway:モデル呼び出しの予算・安全性・監査を一元管理(”全社の問題”への直接の答え)
- Panther 買収(Security Lakehouse)/ Lakewatch:セキュリティ運用のエージェント化
- CustomerLake:レイクハウス上の Agentic CDP
所感
派手なエージェントのデモに比べると目立ちにくいパートですが、個人的にはこの第6弾の発表群が、サミット全体の中で最も「実務に効く」と感じました。AIを試すこと自体は、もはやどの組織でも始まっています。問題はその先で、無秩序に広がったAI利用を、誰がどう統制し、どこまで支出を許し、何を監査するのか——という、まさに「全社の問題」をどう運用に落とすかです。Unity AI Gateway が「すべてのモデル呼び出し」を1つの関所に通す設計は、その問いに対する明快な回答でした。
第1回で挙げられた「データへの接続」と「コスト」という2大課題に対し、今回のガバナンス領域は、外堀から着実に埋めにきた——という印象を強く受けました。
次回はいよいよ最終回、OpenAI の Greg Brockman 氏との対談をレポートします。
参考リンク
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