AIエージェントの種類とは?複数の種類を役割で組み合わせる階層型・マルチエージェントと企業事例

AIエージェントは、単なるチャット型生成AIとは異なり、目的に応じて「考え、判断し、実行する」存在として企業活用が進んでいます。

特に近年は、複数のAIエージェントを役割ごとに分担・連携させる階層型・マルチエージェントの導入が、金融・製造・物流・社内業務支援などで実運用段階に入り始めています。

本記事では、AIエージェントを教科書的に定義されている5つの種類と役割という視点で整理しながら、実際に成果が報告されている日本国内企業の事例をもとに、その仕組みと実用性をわかりやすく解説します。

目次

AIエージェントの5つの種類

世界的に標準とされているAIの教科書「Artificial Intelligence: A Modern Approach」では、エージェントがどのように情報を扱い、どのように行動を決めるかという「構造の違い」によって整理されています。

下記5つは、教科書的に定義されているAIエージェントの種類です。

  1. 単純反射エージェント
  2. モデルベース反射エージェント
  3. 目標ベースエージェント
  4. 効用ベースエージェント
  5. 学習エージェント

それぞれ、解説します。

※これら5種類のAIエージェントは、下位に進むほど「より複雑な環境や状況に対応できるように設計された構造」を持ちますが、優劣を示すものではなく、環境の性質に応じて適切な構造が異なることを意味します。

種類①単純反射エージェント

単純反射エージェントは、最も基本的なAIエージェントです。現在の状況に対して、あらかじめ決められたルールに従って即座に行動します。

特徴は以下のとおりです。

  • 「もしAならBする」というルールのみで動く
  • 過去の状態や履歴を一切考慮しない
  • 内部に記憶やモデルを持たない

代表的な例が、サーモスタットです。室温が設定温度より低ければ暖房をONにし、高ければOFFにする、といった単純な制御を行います。

仕組みがシンプルで高速に動作する一方、環境が少しでも複雑になると柔軟な対応ができないという限界があります。

種類②モデルベース反射エージェント

モデルベース反射エージェントは、単純反射エージェントを一段階進化させた存在です。
現在の観測結果だけでなく、環境の内部モデルを持って行動を決定します。

主な特徴は以下のとおりです。

  • 過去の情報を内部に保持する
  • 直接見えていない状態を推測できる
  • 不完全な情報下でも行動できる

例えば、自動運転システムでは、「今は見えていないが、死角から車が出てくるかもしれない」と推測しながら運転します。

単純反射よりも現実世界に適応しやすい一方、行動は依然としてルールベースであり、長期的な計画までは行いません。

種類③目標ベースエージェント

目標ベースエージェントは、「どう行動するか」ではなく、「何を達成したいか(目標)」を基準に行動を選びます。

特徴は以下のとおりです。

  • 明確なゴールを持つ
  • ゴールに到達するための道筋を考える
  • 将来の状態を想定して判断する

代表例がカーナビです。「目的地に到達する」という目標をもとに、複数のルートを比較し、最適な経路を探索します。

このタイプから、AIは単なる反応装置ではなく、計画を立てる存在として振る舞うようになります。

種類④効用ベースエージェント

効用ベースエージェントは、目標ベースエージェントをさらに発展させたものです。単に目標を達成するだけでなく、どの結果がより望ましいかを評価します。

主な特徴は以下のとおりです。

  • 複数の選択肢を比較できる
  • 「良さ」を数値(効用)で評価する
  • 状況に応じて最適解を変えられる

例えば、ナビゲーションシステムが、「早く着ける」「渋滞が少ない」「景色が良い」といった要素を総合的に判断し、ルートを提案する場合、これは効用ベースエージェントの考え方に近いものです。

現実の意思決定に近い判断ができる反面、効用の定義が難しいという課題もあります。

種類⑤学習エージェント

学習エージェントは、これまで紹介したエージェントとは決定的に異なります。経験から学び、行動を改善できる点が最大の特徴です。

主な特徴は以下のとおりです。

  • 環境とのやり取りから学習する
  • 初期状態では不完全でも成長できる
  • 未知の状況にも対応しやすい

ユーザーの行動履歴をもとに好みを学習するレコメンドAIは、典型的な例です。現代の多くのAIシステムは、この学習エージェントを基盤としており、

現在注目されている生成AIやLLMエージェントも、この枠組みの上に成り立っています。

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AIエージェントを組み合わせる階層型・マルチエージェントとは?

これまで解説してきた5種類のAIエージェントは、基本的に「単体のエージェント」を前提とした分類でした。

しかし、現実の業務や社会システムは、単一の意思決定だけで完結するものは少なく、複数の役割やタスクが同時並行で動いています。

そこで重要になるのが、複数のエージェントを連携させて動かす「階層型・マルチエージェント」です。

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階層型・マルチエージェントは「6種類目」ではない

まず押さえておくべき点として、階層型・マルチエージェントは、先ほどの5種類に並ぶ新しい能力の分類ではありません。

単純反射〜学習エージェント
→エージェント1体あたりの構造・意思決定の違い

階層型・マルチエージェント
→複数のエージェントをどう構成し、どう連携させるかという設計の考え方

つまり、5種類のエージェントの「使い方・組み合わせ方」を拡張した概念だと理解すると正確です。

マルチエージェントとは?

マルチエージェントとは、複数のエージェントが同じ環境に存在し、それぞれが独立して意思決定を行いながら相互に影響し合う仕組み・システムを指します。

ここで重要なのは、「複数存在する」だけでなく、各エージェントが自律的に行動する点です。

マルチエージェントの主な特徴は以下のとおりです。

  • 各エージェントは独立した判断基準を持つ
  • 協調・競合・交渉といった関係が生まれる
  • 中央集権的な制御がなくても成立する

例えば、交通信号制御では、各交差点がそれぞれ交通量を判断しながら信号を切り替えます。

全体を統括する中央システムが存在しなくても、結果として交通の流れが最適化される場合があります。

このように、マルチエージェントは、「大規模」「分散的」「環境変化が激しい」といった状況に強く、単一の高性能エージェントでは扱いきれない問題を分割して解決するための考え方だと言えます。

階層型エージェントとは?

階層型エージェントとは、複数のエージェントを役割ごとに分け、上下関係を持たせて連携させる考え方を指します。

すべての判断を1つのエージェントに任せるのではなく、「何を決めるか」と「どう動くか」を分担する点が特徴です。

一般的な階層型エージェントでは、次のような役割分担が行われます。

区分役割の概要
上位エージェント全体の目的・方針を定め、優先順位や大まかな計画を決定する
下位エージェント指示をもとに具体的な行動を実行し、現場の状況や結果を上位にフィードバックする

階層型エージェントは、組織の役割分担に近い仕組みです。

上位が全体像や方針を決め、下位が具体的な判断や実行を担うことで、複雑な問題を整理して進められます。

これはAIの能力の違いを示すものではなく、複数のエージェントをどのように分担・連携させるかという考え方です。

階層型・マルチエージェントの導入事例【業界別】

階層型・マルチエージェントは、すでに複数の企業・大規模組織において実運用フェーズに入っています。

ここでは、導入効果が数値として公開されている事例を中心に紹介します。

製造・サプライチェーン|NEC

NECは、製造業における調達交渉業務の自動化を目的として、AIエージェントを活用した調達支援システムを開発・実運用しています。

本取り組みでは、納期・数量などの調達条件をもとに、AIエージェントが取引先と自律的に交渉を行い、双方にとって最適な合意形成を支援します。

NECグループ内で約1,300品目の部品調達を対象に実証を行った結果、以下の成果が確認されています。

  • 交渉の約95%をAIのみで合意形成
  • 人が行うと数時間〜数日かかっていた交渉を平均約80秒で完了

この事例は、人が担ってきた判断と交渉をAIエージェントが代替することで、サプライチェーン業務の生産性を大きく向上させた代表的な例といえます。

参考:NEC|NEC、調達交渉を自動化するAIエージェントサービスを提供開始

金融|三菱UFJフィナンシャル・グループ

三菱UFJフィナンシャル・グループでは、市場部門を中心に、複数のAIエージェントを連携させた業務支援を実運用しています。

顧客分析業務をPL分析・BS分析・競合分析などの単位に分解し、それぞれをAIエージェントとして構築しています。

複数のエージェントを組み合わせることで、分析から提案資料作成までを効率化しています。

実際の運用では、以下のような成果が報告されています。

  • 提案資料のドラフト作成を2〜3分で完了
  • 行員1人あたりが深く分析できる顧客数が従来の約10倍
  • 約400名の行員が日常業務で活用

現在はマルチエージェントによる業務支援が中心ですが、今後は複数エージェントを制御するMulti-Agentシステムによるワークフロー変革も進められています。

参考:クラウド Watch|AWSが最新の金融事例を紹介、マルチエージェントなど最先端の生成AI活用を実現

物流・輸配送|セイノー情報サービス

セイノー情報サービスは、労働力不足や業務の属人化が深刻化する物流業界の課題に対し、ソフトバンクと協業し、業界特化型AIエージェントのMVPモデルを構築しています。

この取り組みでは、同社の倉庫管理システム「SLIMS」など既存のロジスティクスITにAIエージェント機能を組み込み、物流現場の状況把握から判断・行動までをAIが支援することを目指しています。

最初のユースケースとして取り組んだのが「緊急出荷」対応です。

従来は、営業担当・物流センター・現場リーダー・輸送会社が個別に連絡を取り合い、30分以上かかっていた判断・調整業務を、AIエージェントが在庫確認、作業可否判断、輸送手配まで一括で行うことで、数分で完結できる状態を目指しています。

現時点ではMVP段階ではあるものの、この取り組みは 人の経験に依存していた判断業務をAIが補完・代替する試みであり、今後は最適作業計画や輸送ルート最適化など、ユースケース拡大を見据えた段階的展開が計画されています。

参考:ソフトバンク|物流業界に特化したAIエージェントのMVPモデルを構築して進める業界DX

社内サポート・業務支援|北陸電力

北陸電力グループでは、従業員約5,000名からの社内問い合わせ対応が管理部門の大きな負担となっていました。この課題に対し、PKSHA Technologyの「PKSHA AI ヘルプデスク」を導入しています。

本システムでは、以下のように階層的な対応フローを構築しています。

  • AIエージェントがFAQや社内文書を自律的に検索・回答
  • 解決できない場合は担当者へエスカレーション
  • 有人対応のログをもとに新たなFAQを生成

導入にあわせて電話問い合わせを原則禁止とし、業務フローを刷新。その結果、問い合わせ対応の負荷軽減と、ナレッジが継続的に蓄積・活用される仕組みの整備が進められています。

単なるチャットボットではなく、AIと人が役割分担しながら問題解決を行うAIエージェント型の社内ヘルプデスクの実運用事例といえます。

参考:PKSHA Technology|北陸電力グループが「PKSHA AI ヘルプデスク」を導入

AIエージェントの種類は「役割」で考えると理解しやすい

AIエージェントの種類は、「学習型」「目標ベース型」といった理論的な分類で語られることが多いですが、実務や業務設計の視点では、役割ベースで考える方が直感的で分かりやすいと言えます。

なぜなら、企業でAIエージェントを使う場合、重要なのは「どの仕事を任せるか」「人のどの役割を代替・支援するか」だからです。

判断を担うAIエージェント

業務全体を俯瞰し、方針や優先順位を決める役割です。

主な役割は次のとおりです。

  • 業務の目的やゴールを整理する
  • 複数の選択肢から優先順位を判断する
  • 次に実行すべきタスクを決定する

人間で例えると、マネージャーや企画担当に近いポジションを担います。

実行を担うAIエージェント

判断結果を受け取り、具体的な作業を実行する役割を担います。

代表的な業務は以下です。

  • 資料・レポートの作成
  • データの集計・加工・分析
  • システム操作や定型業務の自動実行

人が手を動かして行ってきた作業を、高速かつ安定して処理する役割です。

情報収集・分析を担うAIエージェント

判断や実行を支えるために、必要な情報を集め、整理する役割です。

具体的には、以下のような業務を担います。

  • 社内文書・データベースの検索
  • 外部情報や市場データの収集
  • 情報の要約・構造化

意思決定の「材料」を整える裏方として重要な役割を果たします。

調整・交渉を担うAIエージェント

複数の条件や制約を考慮しながら、最適な合意点を見つける役割です。

主な活用例は以下です。

  • 納期・数量・価格などの条件調整
  • スケジュールの最適化
  • 複数関係者間の調整

人間が行うと時間がかかりやすい業務で、特に効果を発揮します。

これら複数の役割を持つAIエージェントを連携させ、上位で判断し、下位で実行・調整を行う仕組みが『階層型・マルチエージェント』です。

単一のAIにすべてを任せるのではなく、役割ごとにAIを分けて協調させる考え方こそが、現実的な業務活用につながっています。

AIエージェントの種類に関するよくある質問(FAQ)

AIエージェントの種類に関するよくある質問をまとめています。

生成AIとAIエージェントの違いは何ですか?

生成AIは主に質問への回答や文章生成を行います。一方AIエージェントは、目的に応じて情報収集・判断・実行までを自律的に行い、業務全体を支援します。

AIエージェントは単体でも活用できますか?

単体でも利用可能ですが、業務が複雑になるほど限界があります。複数のAIエージェントを連携させることで、実務に近い高度な自動化が実現できます。

階層型・マルチエージェントはどのような業務に向いていますか?

判断と実行を分けられる業務に適しています。営業提案、調達交渉、社内問い合わせ対応など、複数工程がある業務で効果を発揮します。

AIエージェント導入時の注意点は何ですか?

目的や業務フローを明確にせず導入すると効果が出にくくなります。業務分解と役割設計を行った上で導入することが重要です。

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