来場3万人を超え、スポンサー240社超で開かれたData + AI Summit 2026。その基調講演で示されたのは、「賢いAI」を入れることではなく、社内の文脈をどうAIに渡すかという話だった。前提となる土台が「Genie Ontology」——社内の知識を“意味の地図”にする仕組み——なら、その地図の上で実際に仕事をするのが、今回の主役「Genie One」です。
イメージしてほしい。営業も経理も、現場のマネージャーも、全員がデスクの隣に「データに強い同僚」を一人ずつ持っている。聞けば調べてくれる。資料も作ってくれる。しかも、見てはいけない情報は決して見せない。Databricksが見せたのは、そういう働き方でした。

Genie Oneとは——“データの分かる同僚”
Genie Oneは、社内のデータやアプリにつながるAIの同僚です。Databricksはこれを「データに精通したAIコワーカー(the data-smart AI coworker)」と呼んでいました。
ここで大事なのは、ただの要約マシンではないこと。過去の数字をまとめるだけでなく、新しく分析をし、資料を作り、複数のシステムをまたいで動きます。たとえば「今週の会議の準備をして」と頼めば、カレンダーを見て、関連する顧客データを引いて、レポートまで仕上げる。一つの仕事を最後までやり切る、という発想です。
実際のデモがそうでした。「今週の製品諮問委員会(PAB)の準備をして」という一言だけで、Genie OneはGoogleカレンダー、Drive、Gmail、Slack、Salesforce、Databricksと、社内に散らばったシステムを横断して必要な情報を集め、顧客プロファイルの分析レポートまで仕上げてみせた。画面の表示は「Time: 4:02 seconds」。たった一言の指示で、会議準備という“地味だが面倒な仕事”が片づいてしまう。

つながり方も普段の道具に寄せてあります。SlackやTeams、メールと双方向でやりとりでき、「毎週月曜の朝に集計を出す」といったスケジュール実行もできる。スマホ(iOS/Android)からも使えます。専用画面を開きに行く必要はない。いつもの場所に同僚がいる、という感覚に近い。
どれだけ変わるか——正答率84.5%という数字
では、その同僚はどれくらい使えるのか。Databricksは、実際の社内データに関する28問の社内ベンチマークで検証していました。
結果は、初回正答率84.5%。比較対象として、最強の汎用コーディングエージェントを同じ問題で測ると52.4%でした。正答率にしておよそ1.6倍、しかもそれを約2倍の速さで返した、ということです。
「半分くらいしか当たらない」AIと、「8割超を初手で当てる」AI。現場の手間は、この差でまるで違ってきます。半分しか当たらないなら、結局すべて人が裏取りするはめになる。それでは時短になりません。
信頼できるのは、根拠をたどれるから
精度が高くても、「本当に合っているのか分からない」答えは使えません。Genie Oneがビジネスで使える理由は、次の3つに集約できます。
- 根拠が追える:答えに出典が付き、どのテーブル・どの資料から、どう計算したかを後から検証できる
- 権限で漏れない:誰が何を見ていいかをUnity Catalog(データ統制の仕組み)から自動で適用する
- 守備範囲が明示される:エージェントごとに「何を扱わないか」がはっきり書かれている
順に見ていきます。まず根拠。実際のデモでは、生成された地域別のレポートに「Sources(6)」「Glossary(1)」という形で参照元と用語の定義が添えられていました。数字だけがポンと出てくるのではなく、根拠とセットで出てくる。「この数字、どこから来たの?」に答えられるAIということです。

次に権限です。見てはいけない情報は、そもそも答えに出てこない。経営層が一番気にする「社内の機密が、聞き方次第でうっかり漏れる」事態を、入口で止める設計になっています。
そして守備範囲。エージェントには「何を扱わないか」がはっきり書かれていました。たとえばモバイルアプリのレビュー担当エージェントには、「財務・リテンション・コンバージョンのデータは含まない」「バグ追跡は未解決ブロッカー優先の課題に限る」といった“守備範囲”が明示されている。何でも答えるふりをして外す、のではなく、扱える範囲を正直に示す。これも信頼の作り方の一つです。

使い方のイメージ——一言で頼み、待たせない
実際の使い方は、拍子抜けするほど普通です。チャットで質問する。定例の資料を自動で作らせる。SlackやTeamsから話しかける。「毎朝この集計を」とスケジュールを組む。スマホで外から確認する。難しい操作を覚える必要はありません。
そして、こうした“データの分かる同僚”を、自分の部署向けに仕立てる動きも広がっています。社内データを扱う作業場にあたる「Genie Spaces」は、すでに顧客が100万超を作成済み。一部の凝った人だけが使う特殊ツール、という段階はとうに過ぎている、ということです。
すぐ試せる——全社員に10ドル分のトークン
Genie Oneは発表と同時に「Available now(今すぐ使える)」。さらに、全従業員に1人あたり毎月10ドル分のトークン(Free $10 DBUs/User/Month)が配られ、Summit当日からその場で触れる状態になっていました。
「いずれ」ではなく「いま、無料の枠で」。鳴り物入りの発表で終わらせず、その場で全員の手に渡す。本気で全社に広げにいく姿勢が、ここに表れていました。

押さえどころ
これまで「データで判断する」のは、一部の分析担当者の仕事でした。SQLが書ける人、ダッシュボードを読める人。それ以外の社員は、できあがった数字をもらって受け取るだけ。
Genie Oneが描くのは、その線引きをなくす世界です。営業も、経理も、現場のリーダーも、自分の言葉でデータに問いかけ、根拠つきの答えを得て、自分で判断する。
問いはシンプルです。あなたの会社で「データで判断できる人」は今、何割いますか。それを一部の専門職に留めたままにするのか、全社員に広げるのか。広げるなら、その同僚が間違わないための“土台”——社内の用語やルールをAIが読める形にした地図——を、誰が、いつ用意するのか。Genie Oneが8割超を当てられたのは、その下にGenie Ontologyという地図があったからでした。道具の前に、土台。順番を間違えないことが肝心です。
関連:生成AIに「自社の文脈」を渡すサービス「Ontology Boost」
Genie Oneが“データの分かる同僚”として頼れるのは、その下に社内の用語・KPI・業務ルールを整理した知識基盤があるからです。同じ仕組みを、自社で使う生成AIにも用意する——これは、私たちSiNCEが提供を開始したサービス 「Ontology Boost」 がまさに取り組む領域です。生成AI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)が、御社固有の用語・KPI・業務ルールに沿って“根拠のある”回答を返せるよう、知識基盤(オントロジー)の構築・接続・運用までを一貫支援します。

