Data + AI Summit 2026、二日目の朝。共同創業者でチーフ・テクノロジストの Matei Zaharia がステージに上がり、こう切り出した。「土曜にリリースしたばかりの、新しいオープンソースプロジェクトの話をしたい」。
エージェントは、もう本当に動き始めている。だが完成形ではない。動くようになったからこそ見えてきた、もう一段上の層——彼が メタハーネス(meta-harness)、「ハーネスのハーネス」と呼ぶものだ。その実装が Omnigent である。
文脈という賭け金——Choice / Control / Cost / Context
Matei 氏の前に登壇した CEO の Ali Ghodsi が土台を敷いていた。「AIはもう十分に賢い。足りないのは知能ではなく文脈(context)だ」。押さえる4つが、Choice(どのモデル・クラウド・形式も選べる開放性)/Control(セキュリティ・監査)/Cost(高騰するAIコストの抑制)/Context だという。

このプラットフォーム図で、Agentic Work の層に Agent Bricks と並んで置かれていたのが Omnigent だ。Ali 氏いわく「Genie の土台にもなっている」中心的な層だという。
ハーネスという見えない層——誰もが作れて、誰もが作ってしまった
「ハーネス」とは何か。言語モデルを取り巻き、それを世界につなぐソフトウェア——それがエージェント・ハーネスである。トークンを吐くだけの Claude というモデルに対し、ファイルやUI、権限とつなぐ Claude Code が「ハーネス」にあたる。Codex も自作のカスタムエージェントも、みな何らかのハーネスをまとっている。
問題は、それがあまりに簡単に作れることだ。だから誰もが作り、実際、誰もが作ってしまった。Matei 氏は週末のペットショップになぞらえる。どんな形でも色でも好きなだけ並んでいる——エージェント用のハーネスもまさにこれだ、と。

笑い話で終わらないのは、エージェントどうしが相互運用しなければならない場面があるからだ。各々が「vibe-code」で自作を続ける限り、断片は噛み合わない。速さでは解けない問題が、ここにある。
compose / collaborate / control——相互運用が突きつける3つの問い
ハーネスの乱立が相互運用を難しくし、3つの問いを生む。ひとつ目は compose(合成)——「異なるハーネスのエージェントを、どう組み合わせてタスクをやらせるか」。Claude Code と Codex を一緒に使いたい瞬間、それは難しくなる。ふたつ目は collaborate(協働)——「人間とエージェントの間で、どう協働するか」。三つ目が control(制御)——「すべてのエージェントを、コストとセキュリティでどう統制するか」。

なかでも Matei 氏が「これが私の毎日だ」と自嘲したのが協働だ。Gemini、ChatGPT、Claude Code、Databricks、Slack——ウィンドウが乱立し、「やっていることといえば、その間でテキストをコピペすることだけ」。各エージェントは自前のハーネスとアプリに閉じ込められ、席を外すときにセッションを文脈ごと別の人へ手渡すことすらできない。

control の側はもっと刺々しい。エージェントはプロンプトインジェクションでハッキングされうるし、されなくてもデータベースを消す。かといって「この100行のPythonを実行していい?」と毎回聞かれ続けるのでは足りない。スライド足元のピンクの帯にはこうあった——「We saw these problems repeatedly within Databricks!」。
メタハーネスの設計——Common APIとRunner、そしてServer
ここで Matei 氏は結論を置く。「エージェントを扱うには、ハーネスより一段上の層が要る。そしてその層は開かれているべきだ」。これがメタハーネス、Omnigent だ。
最下層にあるのは既存のエージェント群——コーディングエージェントも、OpenAI Agents SDK などのカスタムエージェントも対象だ。Omnigent はその上に共通インターフェイス(Common API)を被せる。本質は「メッセージを送り、イベントを受け取り、ツールを呼ぶ」だけ。その上に Runner(エージェントを包んでサンドボックス化・監視する)と、任意接続の Server(History/Catalog/Policies/MCPs(Model Context Protocol=外部ツール接続の標準規格)/Artifacts/Skills を集約し協働と中央集権ポリシーを担う)が乗る。最上層では、どんなエージェントでも Terminal UI/Web UI/Native App/Mobile UI/REST API からアクセスできる。

肝心なのは、Omnigent が Databricks を一切必要としないことだ。Server は Docker、Postgres、OpenTelemetry(動作を計測・監視する可観測性の標準)だけで構成され、どこでも動く。公開から数日で、要望により Antigravity と Cursor(いずれもAIコーディングツール)の対応も追加された。
同じセッションを、別の顔で——ライブデモ
デモは、開発マシンで omni を頭に付けて Claude を起動するところから始まった。Runner が立ち上がり、見慣れた Claude のインターフェイスがそのまま現れる。面白いのはここからだ。同じセッションが Web UI からも開け、チャットで「READMEの先頭にジョークを追加して」と送るとターミナル側にも同じ処理が現れる。入出力が両UIで同期しているのだ。Web側ではファイル差分を確認し、追加箇所へのコメント指示や分岐もできる。

合成が活きるのは、同一セッションを Fork して Codex に切り替える場面だ。履歴を引き継いだまま OpenAI Codex のターミナルが立ち上がる。極めつけは付属のマルチエージェント Polly——Claude と Codex の両方をサブタスクに使うスーパーバイザーで、「2つのジョークを両方に評価させて」と頼むと両ワーカーを起動して採点させ、Consensus: 6/10 とまとめ上げた。協働の実演では、休暇中の同僚にセッションを共有してレビューを受けてみせた。
そして制御。Matei 氏が「$0.20を超えそうなら聞いて」という予算しきい値を設定し(セッションはすでに$0.26を費やしている)大量のファイルを読む作業を頼むと、エージェントはツールを呼ぼうとした瞬間に手を止め、承認を求めてきた。上限の$5に達すれば自動で止まる。この contextual policies(文脈依存ポリシー)は静的な「Yes/No」と違い、直前に何をしたかで権限が変わる——機密文書を読んだ後は社外メール送信を禁じる、といった具合だ。

なぜ開いたのか——メタハーネスはエコシステムだから
これだけの機能を、なぜオープンソースにするのか。Matei 氏の答えは明快だった。「このメタハーネス層は、データ形式や共有プロトコルがそうであるように、開かれていることで恩恵を受ける——みなが一つのやり方に合意しないと機能しないエコシステムだからだ」。

効果はすでに表れている。公開から数日で 5つの新しいハーネスとサンドボックスプロバイダーがマージされた。エージェントを作る誰もが「協働・共有・セキュリティを備えたアプリ」を欲しがる——そのオープンソースの土台が手に入ったわけだ。ロードマップには、ハーネスやモデル、組み込みエージェント、GEPA(エージェントのプロンプトを自動最適化する手法)による自動最適化が並ぶ。これらを日々の運用としてどう回すかは、別セッションの主題に譲られた。
押さえどころ
「AIがその潜在能力を発揮するには、ハーネスの上にもう一段、層が要る」——最後のスライドのこの一行に、Matei 氏の主張は凝縮されていた。
- 問題の核心は ハーネスの乱立。誰もが自前のハーネスを作れて相互運用できず、compose(合成)/collaborate(協働)/control(制御) の3つの問いを生む。
- Omnigent は既存ハーネスの上に Common API を被せる「メタハーネス」。Runner がサンドボックスを、Server が履歴・ポリシー・MCP・スキル等を担い、統一UIを与える。
- 価値はYAML(簡単な設定ファイル形式)での合成、ライブ共有による協働、文脈依存ポリシーとコスト上限の制御。Databricks 不要で、標準技術だけでどこでも動く。
デモで光るエージェントの次に来るのは、それらを束ねて使いこなす層だ。Omnigent は、その層を最初から開いたところに賭けている。

