イントロダクション
アンケートで「ワイヤレスイヤホンを選ぶとき、価格は重要ですか?」と聞くと、ほとんどの人が「重要」と答えます。「バッテリーは?」「ノイズキャンセリングは?」と聞いても、きっと全部「重要」です。これでは、どれを優先して商品を作ればよいか分かりません。
実際の買い物では、「安いけれどバッテリーが短い商品」と「高いけれどノイズキャンセリングがある商品」のように、何かを選ぶとき、何かを諦めています(トレードオフ)。コンジョイント分析は、この「選び方」を回答者に再現してもらい、そこから各要素の価値を数値で取り出す手法です。
コンジョイント分析とは
コンジョイント分析とは、「複数の条件を組み合わせた架空の商品を回答者に評価・選択してもらい、その結果から、各条件の価値を推定する」手法です。次の用語を押さえてください。
- 属性: 商品を構成する要素(価格、バッテリー、ノイズキャンセリング)
- 水準: 属性がとる値(価格なら 5,000円・8,000円・11,000円)
- プロファイル: 水準を組み合わせてつくった、架空の商品
- 部分効用値: 各水準が、満足度(効用)をどれだけ上げ下げするか
この記事の例では、価格(3水準)、バッテリー(5時間・10時間)、ノイズキャンセリング(なし・あり)の3属性で、組み合わせは $3\times2\times2=12$ 通りです。分析からは、次のものが得られます。
- 属性の重要度(どの属性が、選択を左右するか)
- 水準ごとの好み(どの水準が好まれるか)
- 支払意思額(ある機能に、いくらまで払ってよいか)
- 商品が選ばれる割合(シェア)の予測
調査のしくみ
回答者には、プロファイルを並べた画面を見せて、「いちばん買いたいものを1つ選ぶ」という質問に答えてもらいます。12通りすべてを聞くのは大変なので、直交表などで組み合わせを絞り、回答者ごとに組み合わせを変えて、何問か出題します。

図1: 選択型コンジョイントの質問画面の例。回答者は、並んだプロファイルから1つを選ぶ。
| 方式 | 回答のしかた | 分析 |
|---|---|---|
| 評価型 | 各プロファイルに点数をつける、順位をつける | 回帰分析 |
| 選択型(CBC) | 複数のプロファイルから、1つ選ぶ | ロジットモデル |
選択型は、「選ぶ」という実際の買い物に近い回答形式なので、よく使われます。以下は選択型を前提にします。
結果の読み方
選択データから、部分効用値が次のように推定されたとします(架空の値)。各属性の中で、合計が0になるように揃えています。
| 属性 | 水準 | 部分効用値 |
|---|---|---|
| 価格 | 5,000円 | +1.0 |
| 8,000円 | 0.0 | |
| 11,000円 | −1.0 | |
| バッテリー | 5時間 | −0.4 |
| 10時間 | +0.4 | |
| ノイズキャンセリング | なし | −0.6 |
| あり | +0.6 |

図2: 部分効用値(左の棒グラフ)と、そこから求めた属性の重要度(右)。緑は好まれる水準、赤は好まれない水準。
① 商品の総合的な魅力(総効用)は、部分効用値を足し合わせます。たとえば「8,000円・10時間・ノイズキャンセリングあり」は、$0.0+0.4+0.6=1.0$ です。
② 属性の重要度は、属性ごとの部分効用値の「幅($\text{最大}-\text{最小}$)」を、幅の合計で割って求めます。
- 幅:価格 $1.0-(-1.0)=2.0$、バッテリー $0.4-(-0.4)=0.8$、ノイズキャンセリング $0.6-(-0.6)=1.2$(合計 $2.0+0.8+1.2=4.0$)
- 重要度:価格 $\frac{2.0}{4.0}=50\%$、バッテリー $\frac{0.8}{4.0}=20\%$、ノイズキャンセリング $\frac{1.2}{4.0}=30\%$
③ 支払意思額は、価格の部分効用値を使って、効用を円に換算します。価格が3,000円上がるごとに効用は1.0下がる($+1.0\rightarrow0.0\rightarrow-1.0$)ので、効用1.0は3,000円に相当します(価格に対して効用が直線的に下がるとみなした計算です)。
- ノイズキャンセリングあり(なしとの差は $1.2$):$1.2\times3{,}000=3{,}600$ 円
- バッテリー10時間(5時間との差は $0.8$):$0.8\times3{,}000=2{,}400$ 円
④ シェアの予測は、総効用から選択確率を計算します。ロジットモデルでは、次の式で求めます。
$$
P_i = \frac{\exp(U_i)}{\sum_{j=1}^{J}\exp(U_j)}
$$
ここで、$P_i$ は商品 $i$ の予測シェア(選択確率)、$U_i$ はその商品の総効用、$J$ は選択肢となる商品の数です。
| 商品 | 価格 | バッテリー | ノイズキャンセリング | 総効用 | $\exp(\text{総効用})$ | シェア |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 5,000円 | 5時間 | なし | 0.0 | 1.00 | 22% |
| B | 8,000円 | 10時間 | なし | −0.2 | 0.82 | 18% |
| C | 8,000円 | 10時間 | あり | 1.0 | 2.72 | 60% |
意味:CはBと同じ価格のまま、ノイズキャンセリングを足しただけで、シェアが18%から60%に上がります。ノイズキャンセリングには、3,600円の値上げに相当する価値があるためです。このように、「どの機能に、いくらの価値があるか」を、価格と同じ単位で比べられます。
注意点:重要度は、設定した水準の範囲で変わります。価格の重要度が50%なのは、価格の水準を5,000〜11,000円に設定したからです。範囲を広げれば、価格の幅は大きくなり、重要度は上がります。「価格は一般に重要度50%」という意味ではありません。
活用例
コンジョイント分析は、「人が複数の条件の間で、何を重視して選ぶか」を知りたい場面で使われます。マーケティングで生まれた手法ですが、医療や政策の分野にも広がっています。
| 分野 | 調べたいこと | 属性の例 |
|---|---|---|
| 商品・サービスの設計 | どの機能の組み合わせが好まれるか。どの機能に、いくら払ってもらえるか | 機能、デザイン、価格 |
| 価格設定 | 値上げ・値下げで、シェアがどれだけ変わるか | 価格、機能、競合の商品 |
| 顧客のセグメント化 | 価格を重視する層と、機能を重視する層を分ける | (部分効用値のパターンで、回答者をグループに分ける) |
| 医療 | 患者が、治療の効果・副作用・負担の間で、どのようなトレードオフを許容するか | 効果、副作用、通院の頻度、費用 |
| 政策・社会調査 | どのような条件の人(申請者など)が支持されるか | 年齢、職業、出身国など |
FAQ
Q. 「何が重要ですか?」と直接聞くのと、何が違いますか?
A. 直接聞くと、全部「重要」になりがちです。選択型では、何かを選ぶと何かを諦めることになるので、優先度が行動として表れます。
Q. シェアの予測は、実際の売上になりますか?
A. なりません。④のシェアは、「調査の中で、与えられた商品だけから選んだ場合の割合」です。実際の売上は、広告、流通、競合の認知度などにも左右されます。
Q. 個人ごとの好みも分かりますか?
A. 選択型は1人あたりの回答が少ないため、基本は回答者全体の部分効用値を推定します。階層ベイズ(HB)法で、個人別の値を推定する方法もあります。
Q. 「どれも選ばない」という選択肢は、入れたほうがよいですか?
A. 入れることがあります。現実の買い物では「買わない」ことも選べるので、入れると回答が現実に近づきます。市場全体で、どれくらい買われるかを見たいときにも必要になります。
Q. 回答者は何人くらい必要ですか?
A. Sawtooth Software は、経験則として、まず300人を出発点にし、各水準が全体で500回以上登場するようにすることを挙げています。目安は、$\frac{\text{回答者数}\times\text{質問数}\times\text{1問あたりの選択肢数}}{\text{最大の水準数}}\geq500$ となることです。この記事の例では、$\frac{300\times10\times3}{3}=3{,}000$ 回で、目安を満たします。
まとめ
- 目的: 「全部重要」にならないように、選ぶ場面を再現して、各条件の価値を数値にする
- 部分効用値: 足せば総効用、幅の割合が重要度、価格との比が支払意思額、総効用からシェアを予測
- 注意: 重要度は水準の範囲で変わる。仮想の選択なので、実際の購買とは差が出うる
- 活用例: 商品設計、価格設定、セグメント化のほか、医療や政策の調査にも使われる

