Data + AI Summit 2026、Day2の基調講演。CustomerLake のエンジニアリングマネジメントを率いる Tasso Argyros 氏はこう切り出した。優れた企業の80%が顧客体験を主戦場に競っているが、その作り方そのものがAIによって揺らいでいる、と。本稿では、Databricksが世に問う agentic CDP「CustomerLake」 を、登壇スライドとライブデモとともに追う。
AIが、人々の「買い方」を作り変えている
何かを買う前に、あなたはLLMに相談するだろうか。会場ではほぼ8割が手を挙げたという。やがて人は調査も価格比較も購入も配送手配も、すべてエージェントに委ねるようになる。
ここから2つの地殻変動が起きる。「エージェントと人が一緒に買う」こと、そして 「購買判断が数秒で起きる」 ことだ。コマースがヘッドレス化し、エージェントがAPIを使いこなせば、数日〜数週間かけていた購買ジャーニーが秒単位になる。人間の段取りは、もう追いつかない。

キャンペーンは「ウォーターフォール」だった——その型が限界を迎える
従来、マーケティングは顧客全体からセグメント(オーディエンス)を切り、数百万人規模に向けてキャンペーンを配信してきた。その制作は典型的な ウォーターフォールで、戦略・Customer 360(複数ソースを統合した顧客の単一ビュー)構築・オーディエンス作成・コンテンツ・配信と段が下りていく。
このモデルは機能してきたが、遅すぎる(数週間 vs 数分)/真のパーソナライズができない(数百万人 vs 1人)/硬直的(固定 vs リアルタイム判断) という3つの弱点を抱える。エージェントが秒単位で複数チャネルを動く時代に、この型は通用しない——診断は明快だった。

ウォーターフォールを「無限ループ」に——Infinity Campaigns
発想の転換はこうだ。エージェントが買い手側に難題を持ち込むなら、エージェントを解にもしてしまえばいい。顧客一人ひとりにエージェントを割り当て、最新のシグナルから次の最善のアクションとその個人だけのコンテンツを生成。顧客が反応すればまた新たなシグナルが生まれ、エージェントへ戻る——途切れない無限のループだ。
Databricksはこれを Infinity Campaigns と名づけた。記号は無限大(∞)に似ているが、本質は別にある——このキャンペーンには始まりも終わりもない。常時稼働の「エバーグリーン」なループが、顧客行動や事業目標へ自律的に適応する。無限なのは3つ——キャンペーンの期間/コンテンツのバリエーション/アクションまでの速度(ゼロレイテンシ)で、ループ図にはパーソナライゼーションの無限も添えられる。そして 人間は退場しない——マーケターは戦略家・運用者・最終承認者として中心に残る。

CDPは、データから切り離されてきた
これまでなら答えは CDP(Customer Data Platform)だった。生データをCustomer 360へ整え、オーディエンスを組むUIを提供し、Reverse ETL(rETL) でメールや広告プラットフォームへ送り出すビジネスアプリだ。
問題はその立ち位置にある。CDPはミドルウェアであり、データから切り離されていた。ルールベースの静的オーディエンスを作り、1対多(1:Many)で配信する設計だからだ。だがエージェントを働かせるにはコンテキストが要り、それはエージェントが棲む場所になければならない。Argyros 氏の総括は——「CDPは、データ・コンテキスト・エージェントから切り離されてきた」。Infinity Campaignsを動かすには、新世代のCDPが要る。

「agentic CDP」という新カテゴリ——その正体はCustomerLake
その新世代を、Databricksは agentic CDP と呼ぶ。条件は3つ——レイクハウスに埋め込まれている(Lakehouse embedded)こと、LLMをアーキテクチャの中核に据えている(Born in the agentic era)こと、そして Infinity Campaignsを駆動できること。コパイロットではなく、エージェントこそが動作の中心になる設計だ。
「我々は最初期に投入する一社だ」と Argyros 氏が宣言したその製品が CustomerLake。タグラインは 「The perfect customer experience — a billion times a day」。性格は Embedded(レイクハウス埋め込みでデータが外に出ず、Unity Catalog(Databricksのデータ/AIガバナンス機構)のガバナンスを引き継ぐ)・Democratized(ビジネス向けUI)・Autonomous(1対1パーソナライズ)の3つだ。

Profile AgentsとCampaign Agents——生データから1対1の配信まで
CustomerLakeは2つのモジュールから成る。ひとつは Profile Agents——生データからCustomer 360へ至る工程を自動化する。核は Identity Resolution(ID解決)で、共有キーのないファーストパーティデータから同一顧客を確率的に見抜く。エージェント生成のルール→LLMの例外処理→必要なら 人間のフィードバックという3段フォールバックを、Agentic Learning Loop で改善し続ける。サードパーティデータも Databricks Clean Rooms(互いの生データを開示せず突合できるプライバシー保護環境)で、大手プロバイダの Identity Graph(顧客IDの連携データベース)へ安全に突合できる。
もうひとつが Campaign Agents。「繁忙期に追加で100万ドル($1M)を生むキャンペーンを作って」といったプロンプトから計画案を生成し、マーケターが承認するとエージェントが個人ごとのパーソナライズを担う。土台はやはり Infinity Campaigns だ。


ライブデモ——プロンプト一発のオーディエンスから、1対1の意思決定まで
Justin 氏が登壇し、架空のスポーツブランド「Bricksport」のマーケターとしてデモを見せた。新規オーディエンスは Genie(Databricksの自然言語アシスタント。プロンプトからSQLを生成する)に任せる。「グッズに500ドル超を使ったTeam USAファンを含め、USA Fan Kit購入済みは除外」とプロンプトを貼ると、Genieは約80万人のオーディエンスを生成。裏で動く生成SQLもそのまま確認できる。
続いて稼働中のInfinity Campaign「In-Venue Fan Experience」へ。圧巻は Agentsタブだ。ある顧客(Marcus)には「Deferred(保留)」——いま何も送らない、という決定で、観戦やアプリ利用などのシグナルから高信頼の購入意図が足りないと判断した理由まで辿れる。別の顧客には座席アップグレード15%オフのクーポンつきメールが生成される。No ML needed——機械学習を何カ月もかけずとも、LLMを軸にすぐパーソナライズが始まり、ガードレール・計測まで同梱で動く。
「待望の」機能として、Lakeflow Connect(Databricksのマネージドなデータ連携基盤)搭載のネイティブなマネージド Reverse ETL コネクタも登場した。Adobe・Braze・Meta・Google Ads・TikTokといった先へワンクリック接続でき、約20コネクタで立ち上げ年末までに十数個を追加するという。CustomerLakeは2026年6月より private previewだ。

押さえどころ
発表が示したのは、「より賢いモデル」ではなく「データとエージェントの距離をゼロにする」という設計思想だった。
- 数秒で買う時代に、数週間かけるウォーターフォール型は通用しない。答えは始まりも終わりもない常時稼働の自律ループ Infinity Campaignsで、人間は戦略家・運用者・最終承認者として残る。
- それを担う新カテゴリが、データ・コンテキスト・エージェントを切り離さない agentic CDP。Databricks専用の最初期の一社が CustomerLake だ。
- CustomerLakeは Profile Agents(agentic ID解決でCustomer 360を自動生成)と Campaign Agents(Genie駆動のオーディエンスと1対1のInfinity Campaigns)の2モジュールから成り、機械学習を作り込まずに動く。
登壇者が最後にくり返した言葉——「完璧な顧客体験を、1日10億回」。その回数は、人間の手数では決して届かない領域だ。

